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トロトラスト(英: thorotrast)は、二酸化トリウムを主成分とするエックス線診断用血管造影剤の一種[1]。細網内皮系機能検査等の動物実験にも用いられた[2]。しかし、体内に注入されたほとんどが細網内皮系に沈着してアルファ線を放射し続けるトロトラスト沈着症が問題となり、1950年代半ばに使用されなくなった[3]。
二酸化トリウムは1915年にドイツで初めて涙管造影に使用されたが実験的なものでごく限定的なものだった[2]。1928年には二酸化トリウムゾルが製造され、気管支造影剤として使用され、ウンブラトール(Umbrathor)の製品名で広く利用されるようになった[2]。
しかし、1929年、腎盂造影にウンブラトールを使用したところ尿管閉塞を招来した例が報告された[2]。さらに1930年にはウンブラトールは酸性尿と反応すると雲絮状の沈殿が生じるため尿路撮影に不適当であり、血清や体液等と反応しても雲絮状の沈殿が生じることがあり特に小血管では塞栓を引き起こすおそれがあると報告された[2]。
この欠点を解消するものとして、1930年にドイツのHeyden社から安定剤としてデキストリン等を添加した製品名「トロトラスト」が開発された[1][2]。後にトロトラストはドイツのHeyden社のほかアメリカのFellow Testager社でも製造された[2]。
トロトラストは造影効果が強力でありながら副作用をほとんど伴わないとして、ドイツ、日本、スイス、スウェーデン、ポルトガル、フランス、アメリカなど世界各国で使用された[2][3]。
トロトラストについては開発当初から晩発性の放射線障害(悪性腫瘍や白血病など)が問題になっていたが、解像力が良いため1930年代から1940年代を中心に、1953年頃までドイツ、アメリカ、フランス、イギリス、ポルトガルなどで使用された[1][3]。日本では主に1943年頃まで使用され、1954年頃まで散発的に使用例の報告がある[2]。
トロトラストは放射能をもつ重金属顆粒であり体内に注入されると、体外にはほとんど排出されず90%以上が細網内皮系に沈着して半永久的にアルファ線を放射し続ける[2][3]。その結果、肝臓を中心とする悪性腫瘍や細網内皮系の機能低下を引き起こすことが知られるようになった[3]。
開発当初からトロトラストに対し一部の人々は安全性に疑問を抱いており、1933年には発がん性がラットの動物実験で確認されていた[2][3]。
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