デデキントゼータ関数(デデキントゼータかんすう、英: Dedekind's zeta function)とは、
代数体 K に対して
で表される関数のことをいう。ただし、和は K の整イデアル[1]全てを動き、 は整イデアル のノルムである。従って、デデキントゼータ関数は、ヘッケのL関数の特別な場合である。
特に、K が有理数体のとき、リーマンゼータ関数になる。
与えられた整数 n に対して、ノルムが n である整イデアルは有限個しかなく、ノルムは正整数であるので、
デデキントゼータ関数は、
と、ディリクレ級数の形で表すことが出来る。
デデキントゼータ関数は、 に対して、絶対かつ一様収束する。従って、 で、 は正則関数である。
n 次代数体 K に対して、デデキントゼータ関数は次の関数等式を満たす:
。
ただし、 は K の実共役体、虚共役体の個数とする。
特に、K を有理数体にすれば、よく知られたリーマンゼータ関数の関数等式
が成立する。
さらに、 に対する、代数体 K の完備ゼータ関数を
とおけば[2]、関数等式
を満たし、 に解析接続できる。従って、 は まで解析接続できる。
解析接続できない では、デデキントゼータ関数は 1 位の極で、留数は
である。つまり、
である[3]。
ただし、 は K の実共役体、虚共役体の個数、w は、K に含まれる 1 のベキ根の個数、 は、それぞれ K の類数、単数基準とする。
任意の整イデアルは、素イデアルの積で表すことができるので、デデキントゼータ関数は、以下のオイラー積表示を持つ。
のとき、
。
ただし、積は K の素イデアル全てを動くものとする。
デデキントゼータ関数のオイラー積表示により、素イデアルのノルムの値からデデキントゼータ関数を具体的に計算することができる。素イデアルのノルムは、有理素数[4]の素イデアル分解の結果から求めることができるが、K が一般の代数体の場合、素イデアル分解が複雑であるので、具体的に計算することは大変難しい。
しかし、K が二次体または円分体であれば、素イデアル分解の様子がよく分かっているので、オイラー積を計算することができ、その結果、デデキントゼータ関数をディリクレのL関数を用いて表現することができることが知られている。
(1) K が二次体の場合
K の判別式を D とし、 を法 D に関するクロネッカー指標とすると、
が成立する。
(2) K が円分体の場合
とする。
が成立する。ここで、最初の積は、法 m に関する原始的ディリクレ指標全てにわたる積とし、二番目の積は、法 m に関する原始的ディリクレ指標のうち、単位指標以外のもの全てにわたる積である。
さらに、任意の有理数体のアーベル拡大体 K は、ある円分体の部分体であるので(クロネッカー=ウェーバーの定理)、上のことから、 は、いくつかのディリクレL関数の積で表すことができる。
デデキントゼータ関数を用いた応用例として、2つの平方数の和で表す方法の数を求めてみることにする。
これはヤコビの二平方定理として知られ、いろいろな証明方法が知られているが(ヤコビの二平方定理の証明を参照)、ここでは、デデキントゼータ関数を使った方法で証明してみる。
とおき、K 上のデデキントゼータ関数 を二通りの方法で計算する。
まずは、ディリクレ級数の形でデデキントゼータ関数を表し、その係数を求めてみる。
とおくと、
- [5]
が成立するので、 は、n を2つの平方数の和で表す方法の数の4倍に等しい。慣例に従って、2つの平方数の和で表す方法の数を と書くと、
と表される。
さて、K は二次体であるので、 は、リーマンゼータ関数と、クロネッカー指標からなるディリクレL関数の積で表される。 のクロネッカー指標を具体的に求めることにより、
が成立する。二通りに表された を比較することにより、
が成立する。これはヤコビの二平方定理に他ならない。
さらなる応用として、K を別の二次体 にすることで、上と同じ方法で、 の形での表し方の数を求めることができる。