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打楽器 ウィキペディアから
ティンパニまたはティンパニー(伊: timpani)は、打楽器の一種。主に銅製であり、半球形の胴体に脚がついた大型の太鼓で、皮が張られた上面(鼓面、打面)を、通常2本のマレット(ばち)で叩く。太鼓の一種であるが、通常の太鼓は非整数倍音成分が多く特定の音程を聴き取ることは困難であるのに対し、ティンパニでははっきりと音高を聴き取ることができる。
中世のアラブで軍楽太鼓として使われていた「ナッカーラ」と呼ばれる鍋底状の楽器を先祖とする。馬の胴の両脇に取り付ける楽器として発達し、15世紀のヨーロッパでは「ナカイル(naccaire)」または「ネーカー(Naker(s))」として、トランペットと共に騎馬軍楽隊の楽器編成の中心に位置づけられた。やがて17世紀半ばにはオーケストラに取り入れられた。
古典派までは2台一組で、多くの作曲家は主音と属音を補強するのに用いた。パーセルは歌劇『妖精の女王』第4幕冒頭にティンパニでメロディを書いているが、これは例外中の例外である(例示:『打楽器事典』音楽之友社)。
ベルリオーズ以降さらに多くのティンパニが用いられるようになり、現代では4台一組で用いられることが多い。
ティンパニは19世紀まで、オーケストラや吹奏楽の中で補助的に活躍することが中心的であったが、20世紀になると協奏曲の主役(ティンパニ協奏曲)として、あるいは室内楽やソロで活躍するようになった。
本体の材質は主に銅である。フランス製など一部の楽器には真鍮も用いられる[1]。低価格のものや、持ち運びを前提に設計されたものには、ファイバーグラス製やアルミ製のものもある。これら銅製以外のものは、表面が塗装されていることが多い。 鼓面は従来は皮(牛または羊)製であり、現在は樹脂製のものも多い。音質は皮製がより優れているといわれているが「古典的な音がする」と表現した方が合理的である。 楽器によっては、皮製の鼓面の性質(温度、湿度等による音高の変化)に対応するため、音程の微調整機構を備えているものがある(手元で操作するレバーや、ハンドル等)。樹脂製は皮よりも音程が狂いにくいので、音程を頻繁に変える現代曲への酷使に耐え得る。
叩くばちはマレットと呼ぶ。従来は木製だったが、現在はフェルトなどを巻いた異なる硬さのマレットを数種類揃え、曲の場面によってマレットを持ち替えることが一般的である。マレットの選定は、古典曲では打楽器奏者が、場合によっては指揮者の指示や協議で決定するが、近代以降は「やわらかいマレットで」などと作曲者によってすでに譜面上に指定されていることもある。また、マレットの柄の重さや長さによっても音の大きさや力強さが違うので注意を要する。
楽器の方式には、
がある。
一般的に使われるティンパニは4つのサイズに集約される。更にピッコロ・ティンパニを追加することもある。大きさは、4台一組の場合では、小さい方から23インチ、26インチ、29インチ、32インチ(最低音はそれぞれC4、G3、D3、A2、E2)のように、3インチ刻みで揃えることが多いが、メーカーによっては他の径のものを用意しているところもあり、上述の組み方に準じて、楽曲や奏者の都合で選ぶことができる。ヨーロッパではセンチで言い表す。なお、20インチ以下のピッコロ・ティンパニは特注(受注生産[2])となることが多い。
以下が一般的なサイズと音域である[3]。
音程の異なる複数個で使用されることが多く、単体で使われることは稀である。このため通常、複数形のtimpaniと呼称される。ちなみに、単数形はtimpanoとなる。語源はラテン語のtympanumから来ている。このためTympaniと書く楽譜もあるが、現在ではほとんど用いられない。
複数のティンパニを並べて使う時は、それぞれ異なる音程にチューニングしたものを用意する。かつては鼓面にネジが6個程度ついていたり、そのネジがチェーンで連動して音程を調節する仕組みだったが、現代のティンパニにはペダルがついており、音程を調節しながら演奏することもできる。比較的編成の大きなオーケストラや吹奏楽で使われることが多い。
音程に合わせて左から右に小さくなるように円弧に配置するのが一般的[4]。打面は手前から10cm程度の位置である[4]。
「立奏」の場合、円弧の中心の位置に立ち、足を肩幅に開き、手はそのままで腰から上だけを回し、両端2台がちょうど自分が叩く位置にくるようにする。近年では、アマチュア団体においても「座奏」もよく見受けられるが、特に交響曲やオペラなどの長時間演奏に適することと音の安定感、現代曲では多数の音程を必要とするため、音換えが頻繁になるのを合理化するためである。また、奏者の身長にあわせ演奏しやすい高さにできる、つまり打面に対して適切な角度を保てるということから座奏を好む奏者も少なくない。ドイツでは、チェロやコントラバスのように奏者から見て、右に低い音、左に高い音をセットすることが慣例で、アメリカや他のヨーロッパ諸国ではピアノと同様に左に低い音をセットする場合が多い[5]。ドイツ式の利点は、鳴らすのに力が必要な大きいサイズの楽器が左側にくることで、主としてニ長調などの高く張力のある主音を左腕でバランス良く演奏することができる(右利きであることが前提)。
オーケストラにおいて、ティンパニ奏者は通常ティンパニのみを演奏し、他の打楽器に持ち替えることは基本的にはない。例外的にリヒャルト・シュトラウスの「薔薇の騎士」の最後で他の打楽器奏者がみな帰ってしまってティンパニ奏者が一時的にトライアングルを演奏する場合がある。現代音楽でもオーケストラ編成の曲はこれに準ずる用い方が好まれる。一方で、吹奏楽や室内管弦楽や打楽器アンサンブル編成の曲は、ティンパニ奏者が他の打楽器を持ち替えて演奏することもある。
また、ティンパニは余韻をうまく生かすことも演奏の一つに入る。余韻をとめるには、ティンパニをマレットで打つところを押し付けないで余計な切りの雑音を阻止するために手でそっと軽くなでるようにする(低い音は余韻が長く、高い音はすぐ余韻が消える)。この動作を「マフリング」という。
音高D2-C4の範囲で調律できる。従来は音高F2-F3の範囲で調律するのが一般的である。近現代においてはそれより更に低いまたは高い音程を求める場合もあるが(ベルク『管弦楽のための3つの小品』など)、音質が緩すぎてはっきり聞こえなかったり張りつめすぎて響きに欠けるなどの問題があり、あまり一般的ではない。29インチ以上の大型楽器では、これらの拡張音(のうちの低い方)も音質にさほどの問題なく演奏することができる。
古典時代では26インチの楽器はBb2-F3、29インチの楽器はF2-C3の範囲で調律できたが、主音を26インチ、属音を29インチにして4度間隔で前者をD3、後者をA2に調律することが多く、最も良い音が出た。したがってバッハのトランペットとともにニ長調周辺の音程の調性で活躍することが多かった。なお、牛皮の手締め式だったので調律に15分程度はかかったという。
ベートーヴェンの交響曲第9番では楽章ごとに異なる調律を求めた。
また、主音と属音のみを調律していた時代には、曲が転調によってそれらの音から離れても、ロッシーニのオペラの序曲のように第3音や第7音に相当する箇所でティンパニを叩くことが多く用いられた。これは、ティンパニの音質は均等な倍音が出るものの管楽器や弦楽器と比べると不明瞭なため、音程の充実よりは大太鼓のように打楽器的な噪音効果を優先させて用いたことによる。ベルリオーズ/リヒャルト・シュトラウス補筆「管弦楽法」では、リヒャルト・シュトラウスの補筆としてヴェルディの『仮面舞踏会』など初期作品におけるこれらの「無頓着な」用法について「私の趣味ではない」と否定的な意見を寄せているが、これはティンパニの調律が容易になったシュトラウスの時代の反映もあるだろう。
バルトークの「弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽」や『管弦楽のための協奏曲』では、演奏の最中に調律を変更することが求められる。特に第5楽章205小節ではトレモロを奏しながらのグリッサンドが指定され、ペダルティンパニでなければ演奏することができない。他にストラヴィンスキーの『狐』にも同様の奏法指定がある。(例示:伊福部昭「管絃楽法」より)
現代では、このようなペダルを用いた奏法や頻繁な調律の変更も普通に用いられる。現代のティンパニのペダルは段階的なグリッサンドだけでなく、つま先と踵で踏み替えることによって瞬時に半音下がるようにも作られており、ストラヴィンスキー『火の鳥』終盤などで効果的に用いられる。
中国には、「定音缸鼓」Dingyin Gangguと呼ばれるティンパニの構造を取り入れて従来のゴウ鼓(花盆鼓)を改良して作った楽器がある(打楽器辞典 音楽之友社 より)。
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