ダイアウルフ

ネコ目(食肉目)イヌ科に分類される絶滅種 ウィキペディアから

ダイアウルフ

ダイアウルフ(異称:ダイアオオカミ学名Aenocyon dirus英語名:Dire wolf)は、約30万- 約1万年前(新生代第四紀更新世中期- 完新世初期)のアメリカ大陸に棲息していた、ネコ目(食肉目)イヌ科に分類される絶滅種であり、既知のイヌ亜科では最大の種である。種小名の dirus はラテン語で「恐ろしい」の意。Aenocyon dirus dirusAenocyon dirus guildayiの2亜種が知られている。

概要 ダイアウルフ, 地質時代 ...
ダイアウルフ
生息年代: 新生代第四紀更新世中期 - 完新世初期、0.30–0.010 Ma
Thumb
ダイアウルフの化石標本
米国カリフォルニア州のジョージ・C・ペイジ博物館所蔵
地質時代
約30万 - 約1万年前
新生代第四紀更新世中期 - 完新世初期)
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
上目 : ローラシア獣上目 Laurasiatheria
: ネコ目(食肉目) Carnivora
亜目 : イヌ亜目 Caniformia
下目 : イヌ下目 Cynoidea
: イヌ科 Canidae
亜科 : イヌ亜科 Caninae
: イヌ族 Canini
: Aenocyon属 Aenocyon
: ダイアウルフ A. dirus
学名
Aenocyon dirus (Leidy, 1858)
シノニム

Canis dirus
Canis ayersi
Canis indianensis
Canis mississippiensis

和名
ダイアウルフ
ダイアオオカミ
英名
Dire wolf
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分類

従来、ダイアウルフは骨の形態の似たタイリクオオカミと近縁と思われていて、イヌ属に分類されCanis dirusカニス・ディルス)とされていた。しかし、2021年1月に発表されたダイアウルフのゲノムを解析した論文では、ダイアウルフはタイリクオオカミとはそれほど近くなく、系統樹ではセグロジャッカルヨコスジジャッカルよりも基部で分岐したと推定されている。約570万年前にタイリクオオカミの祖先から枝分かれした系統であるという[1][2][3]。この論文では、ダイアウルフをイヌ属(Canis)でなく1918年に提案されたAenocyon属に分類することが提案された。 

特徴

分布

北アメリカ大陸南部と南アメリカ大陸北部の、草原から山林に渡る広範囲に棲息していた。近年では中国北東部のハルビン市付近からも産出例が報告されており、これは(北緯42度線以北での化石の発見が存在しなかったため)従来の仮説であった寒冷気候と北米大陸の氷床がダイアウルフの移動を制限していたという説を覆す発見となった[4]。しかし、この標本が実際にダイアウルフに属するかについては疑問視する研究もある[5]

ダイアウルフは、マンモスステップの主要な捕食者でもあった。

形態

頭胴長約125センチメートル、尾長約60センチメートル、体高約80センチメートル。現生のタイリクオオカミの大型の亜種に近いサイズだが、よりどっしりとした体つきで、平均体重は現生の北米のタイリクオオカミの平均より重かったと推定されている。A. d. dirusA. d. guildayiより四肢が長い。雄は現生のイヌ科の種に比べて際立って大きな陰茎骨を持っていた。頭部は幅広く、側頭窓頬骨弓の拡大によって咬筋に大きな付着部を与えていた。また、は頑丈であり、タイリクオオカミより大きなを持っていた。

生態

本種は群れを形成する捕食者であったと推測されている。また、スミロドンの食べ残しも利用していたであろう事も考えられている。しかし、頭蓋骨や歯の形態から、骨を噛み砕くことはあまりなかったと考えられる[6]。歯や骨格に性的二形があまりないため、タイリクオオカミのように一夫一妻であったと考えられる[7]

カリフォルニア州ロサンゼルスにあるラ・ブレア・タールピットにおいてスミロドンなどの他の動物とともに多数の化石が発見されている。タールに足をとられた草食動物を集団で襲い、同様に足をとられたものと思われる。

絶滅

ダイアウルフは最終氷期後に絶滅したとされる。ダイアウルフの最も年代が新しい化石は、ミズーリ州で発見された約9,440年前のものである。絶滅の要因として大型草食獣の絶滅、気候変動、ヒトを含む他種との競合などが考えられているが、はっきりしていない。

遺伝子工学による「復活」

2025年に、アメリカ・Colossal Biosciences社が遺伝子操作されたオオカミの仔3頭(en:Romulus, Remus, and Khaleesi)を誕生させ、「ダイアウルフの復活」として報道された。

タイリクオオカミに対し14の遺伝子に変異を20箇所導入することで[8]、ダイアウルフに似た形質が付与されている。白い毛皮、大きな体、強靭な肩、広い頭、大きな歯と顎、筋肉質な脚、特徴的な発声(特に遠吠えと鼻鳴き)が特徴とされる[9]

公開されているダイアウルフ由来の変異箇所は以下の通りである[10]

  • 複数遺伝子に影響するエンハンサー領域
    • HMGA2英語版(体の大きさに影響) MSRB3(耳や頭蓋骨の形状に影響)など複数の遺伝子に関与する。
  • LCORL英語版
    • 体の大きさに影響する。

一方、ダイアウルフに存在する色素遺伝子(OCA2英語版, SLC45A2英語版, MITF)の変異は聴覚障害や失明につながるため見送られ、代わりに明るい毛色を可能にするMc1rMFSD12の欠失によりダイアウルフ様の外見を実現している(実際のダイアウルフは赤毛であったという仮説があるが、Colossal社のCEOはこれを否定し白であったと考えている[11])。

MFSD12の第一エクソンへのミスセンス突然変異は、アフガン・ハウンドなど多くのイヌ品種で見つかっており、白色〜クリーム色の体毛をもたらすことが知られていた[12]ため選定されたと考えられる。

一方、Mc1rの機能低下バリアントはシベリアン・ハスキーアラスカン・マラミュートや複数の古代イヌDNAから見つかっているが、タイリクオオカミからは見つかっておらず[13]、ダイアウルフに関する報告もない。

ヒトの機能喪失型MC1rバリアントであるR151Cは、赤毛と白い肌をもたらす一方で、黒色腫パーキンソン病のリスク増加につながることが知られている[14]

更新世オオカミ

シベリアに生息していたタイリクオオカミの系統のオオカミ。ダイアウルフとは系統が異なる。

日本列島で発見された大型のオオカミの化石(青森県静岡県)は、この系統と考えられる[15]

ギャラリー

脚注

関連項目

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