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ガロア理論(ガロアりろん、Galois theory)は、代数方程式や体の構造を "ガロア群" と呼ばれる群を用いて記述する理論。1830年代のエヴァリスト・ガロアによる代数方程式の冪根による可解性などの研究が由来。ガロアは当時、まだ確立されていなかった群や体の考えを方程式の研究に用いていた。
ガロア理論によれば、“ガロア拡大”と呼ばれる体の代数拡大について、拡大の自己同型群の閉部分群と、拡大の中間体との対応関係を記述することができる。
—アンドレ・ヴェイユ |
ガロア理論では、加減乗除ができるような数の範疇での代数方程式を考察対象とする。例えば、有理数や複素数の範囲で多項式で表わされる方程式の解を考えたり、整係数の多項式で素数を法とした解を考えたりする。
代数方程式が "代数的に解ける" かどうか、つまり係数に対する四則演算と根号の有限個の組合せで解が表せるかどうかが問題になる。四次までの代数方程式についてはこれが可能。
例えば二次の多項式 x2 − 2ax + b = 0 の二つの根は
と表すことができる。
一般に、与えられた多項式 p(以下技術的な仮定として p の分離性を仮定する)の根が(当該)多項式の係数の四則演算と冪根によって表せるかどうかは、係数の作る体 K の適当な冪根拡大に根が含まれるかどうか、あるいは別の見方をすれば、与えられた多項式の根を全て添加して、その上では多項式 p が一次式の積に分解するようにした体(多項式 p の分解体; splitting field)L が、体 K の冪根拡大になっているか、と定式化できる。
多項式 p を形式的に根の一次式の積として表す(実際、これは K を含む代数閉体上で可能になる)ことで 多項式 p の係数は根の基本対称式であること(根と係数の関係)が分かる。 拡大体 L の自己同型 σ が根の入れ替えを引き起こしているときには σ の下で多項式 p の係数や、より一般に K の元は変化しないことが分かる。
一方、K の元を不変にするような L の自己同型は多項式 p の根を入れ替えている。 このような変換すべての集まり Gal(L/K) は変換の合成という二項演算について群の構造を持っている。 これを L の K 上のガロア群、または多項式 p のガロア群と呼ぶ。
仮に 多項式 p の根が係数の加減乗除やべき根による式で表せていたとすると、その式のうち一部分で表される数から生成するような体を考えることができる。 こうして得られる体は K を含んで L に含まれる体(L の部分拡大)となる。 このとき、ガロア理論の主定理によってこの部分拡大をちょうど不変体にするような Gal(L/K) の部分群が存在する。 K の元 x の n 乗根は n 個あるが、それらすべてで生成されるような L の部分体は重要な役割を果たす。 より一般に、体の拡大において、ある体上で既約な多項式の分解体となるという性質を正規性といい、中間体の正規性はガロア群の部分群が正規部分群であることに対応している。
例えば、L の正規部分拡大のうちで K の特定の元のべき根によって生成されるもの M の対称性を表す群
は巡回群になる。
L が K のべき根拡大になっているかどうかは群 Gal(L/K) が可解群になっているかどうか。 このようにして分解体の自己同型を調べることで方程式の可解性について考察することができる。
一方、最も一般的な設定の下では群 Gal(L/K) は n 次の対称群になる。 特に、5 次以上の一般の多項式の対称性を表す 5 次の対称群は可解群ではない。 このことから 5 次以上の代数方程式は一般に可解でない(代数的な根の公式が存在しない)。
抽象代数学においては、方程式とその分解体という具体的な対象を一旦放棄して、抽象的に定義された体の代数的拡大を取り扱うことになる。上と同様に拡大体の自己同型と部分群の間の対応がうまくいくように、分離性と正規性とよばれる二つの条件が要求される。この二つを満たすような拡大は ガロア拡大 (Galois extension) と呼ばれる。 一般に体 K の有限次分離拡大の「合併」として K の分離閉包 K sep が考えられる。K sep の正規部分拡大 L の自己同型で K の元を固定しているもの全体 Gal(L/K) は L に含まれる K の有限次分離拡大のガロア群の射影極限となっている。Gal(L/K) は各点収束の位相について位相群となり、L の中間体のなす系と、Gal(L/K) の閉部分群たちのなす系との間に同値性が成り立つ。
体 K に対しその絶対ガロア群 GK = Gal(K sep/K) が推移的かつ連続に作用する有限離散空間 X が与えられたとする。このとき X から K sep への写像の空間 (Ksep)X に対する GK の作用
が考えられる。この作用の下で固定されている写像たちのなす部分代数は、X の任意の一点の固定部分群に関する K sep の不変部分体と同型になる(X の点の取り替えは K sep の中での共役な部分体の取り替えに対応する)。X への作用の推移性を外すことは K の有限次分離拡大体の代わりに K 上の有限エタール代数を考えることに対応し、こうして K 上の有限エタール代数のなす圏と GK が連続に作用する離散有限空間のなす圏との間の反変圏同値が得られる。これを出発点としてアレクサンドル・グロタンディークによるガロア理論の圏論的定式化が得られる。
グロタンディークのガロア理論において古典的なガロア理論は次のように理解される。K上のエタール代数はアフィンスキーム Spec(K) の上のエタール層を表しており、埋め込みK → K sep に対応する射 Spec(K sep) → Spec(K) が表す「点」でのファイバーをとることに対応する関手 FK sep: A → HomK(A, K sep) が、圏同値 : Spec(K) 上のエタール層の圏 EtK ≡ G が連続的に作用する集合の圏 BG をひき起こしている。また、絶対ガロア群はこのファイバー関手の自己同型群として実現されており、特定の公理を満たしている関手 からガロア群を復元できることが分かる。また、上の圏同値によって、体 K上の ガロアコホモロジーは、Spec(K) 上のエタール・コホモロジー理論と同値となる。
与えられた方程式(あるいは体のガロア拡大)のガロア群を求める問題を "ガロアの順問題"、与えられた群をガロア群としてもつ方程式(あるいは体の拡大)を具体的に構成する問題を "ガロアの逆問題" と呼ぶことがある。
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体 L を体 K の有限次ガロア拡大とする。「L と K の中間体 M」 と 「Gal(L/K) の部分群 H」 について次の式が成立つ。
ただし、Gal(L/M) は拡大 L/M のガロア群であり、LH は H の作用で不変な L の元を集めた L の部分体を指す。
したがって、「L と K の中間体 M」 と 「ガロア群 Gal(L/K) の部分群 H」の間の相互の対応を与える写像
は互いに逆であり、全単射になることがわかる。また、この対応はあきらかに包含関係を逆にしている。
つまり、中間体が M1 ⊃ M2 ならば φ(M1) ⊂ φ(M2) であり、 部分群が H1 ⊃ H2 ならば ψ(H1) ⊂ ψ(H2) となる。
ガロアは1832年の(死の原因となる)決闘の前日に、友人のオーギュスト・シュヴァリエに宛てて、ガロア理論と楕円関数論に関する数学的業績を要約した手紙を書いた。その後、1846年になって、リウヴィルがガロアの功績を知って自分の雑誌にガロアの論文集を掲載した[1]ことで、多くの数学者が刺激を受けることになった。デデキントは1855年から1857年にかけてゲッティンゲン大学でガロア理論に関する最初の講義をおこなった[2]。そのとき、デデキントはガロアの理論を「ガロア理論」(独: Galois-Theorie)と名づけた[3]。早い時期に、ベッチ、クロネッカー、ケイリー、セレは群概念を厳密化していった。カミーユ・ジョルダンによって1870年に発表された『置換と代数方程式論』 (Traité des substitutions et des équations algebraique) はガロア理論に関する包括的な解説として最も古いものである。1871年にデデキントは四則演算で閉じた(数の)集合を「体」(独: Körper)と名づけた。また、デデキントとウェーバーは1882年に代数関数体とリーマン面の代数的理論を構築した[2]。
ソフス・リーによって導入されたリー群は代数方程式に対するガロア理論の類似を微分方程式に対して確立しようという試みの中から生まれたとされている。その後、エミール・アルティンによってガロア理論の線型代数学的な定式化が追求された[4][5]。アレクサンダー・グロタンディークによって圏論的な定式化と数論幾何・代数幾何への応用が押し進められた。
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