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北西セム語に属する言語 ウィキペディアから
アラム語(アラム語、ܠܫܢܐ ܐܪܡܝܐ, ラテン語: Lingua Aramaica)は、かつてシリア地方、メソポタミアで遅くとも紀元前1000年ごろから紀元600年頃までには話されており、かつ現在もレバノンなどで話されているアフロ・アジア語族セム語派の言語で、系統的にはフェニキア語やヘブライ語、ウガリト語、モアブ語(英語版)などと同じ北西セム語に属す言語である。アラマイ語とも呼ばれる[3]。
アラム語 | |
---|---|
ܐܪܡܝܐ, ארמית Arāmît | |
発音 |
IPA: [arɑmiθ], [arɑmit], [ɑrɑmɑjɑ], [ɔrɔmɔjɔ] |
話される国 |
レバノン
|
話者数 | 約2,105,000人 |
言語系統 | |
表記体系 | アラム文字, シリア文字, ヘブライ文字, マンダ文字, アラビア文字 (日常語) デモティック[1]、漢字[2]の碑文が少数ながら見つかっている。 |
言語コード | |
ISO 639-3 |
各種:arc — 帝国アラム語 (700–300 BC)oar — 古代アラム語 (-700 BC)aii — アッシリア現代アラム語aij — ノシャン語amw — 現代西アラム語bhn — ボータン現代アラム語bjf — バルザニ・ユダヤ現代アラム語cld — カルデア現代アラム語hrt — ヘルテヴィン語huy — ハラウラ語jpa — パレスチナ・ユダヤ教徒アラム語kqd — コイ・サンジャク・スラト語lhs — ムラハソー語lsd — デニ語mid — 現代マンダ語myz — マンダ語sam — サマリア・アラム語syc — シリア語syn — セナヤ語tmr — ユダヤ・バビロニア・アラム語trg — ディダン語tru — トゥロヨ語xrm — Armazic(0–200 AD) |
もともとアラム語は今のシリアを中心としてその周辺(レバノン、ヨルダン、トルコ、イラク)に住むアラム人の言語だった。アラム人は主に農民だったが、アレッポやダマスカスに代表される都市の住民もあった。後に通用範囲を広げて中東全体のリンガ・フランカとして使われるようになったが、7世紀にアラビア語に押されて衰退した。現在でもアラム系諸言語の話者は存在するが、周辺のアラビア語やクルド語の強い影響を受けている。20世紀にはいるとアラム語が使われる範囲は縮小した[4]。
アラム語は新アッシリア帝国の外交用語としても使われ、新バビロニアやアケメネス朝ペルシア帝国は行政用の公用語としてアラム語が使われた。近隣のセム語話者たちはその文章語、口語のアラム語化といった直接的な影響を受ける。
アラム語によって書かれた文献は3000年間近くにわたる長い歴史を持ち、その間に大きな変化を経ている。また地理的な違いも大きい。大別すると以下のように分けられる[5]。
現代のアラム語を話す住民の居住地として、シリアの首都ダマスカス周辺の村々が知られていたが、2011年に発生したシリア内戦を契機にアラム語を話す住民が離散。言葉を引き継ぐ世代交代が難しくなっていることに加え、シリア国内にいるアラム語の専門家の数も減り続けており、近い将来、シリア国内からは消えてしまう可能性がある[10]。
古代アラム語ではセム祖語以来の子音の区別は保たれていたと考えられる[11]。帝国アラム語以降、θ ð θʼ ɬ ɬʼ x ɣ がそれぞれ t d tʼ s ʕ ħ ʕ に合流した結果、後期アラム語では子音数は22になった。その一方で、子音弱化によって閉鎖音が摩擦音化した[12][13]。
とくに *ɬʼ の咽頭音化は目立つ変化であり、セム祖語 *ʔarɬʼ(地)は、ヘブライ語 ʔɛrɛsʼ(אֶרֶץ)に対してアラム語では ʔarʕaː になる[16](アラビア語では ʔarḍ( أرض))。
帝国アラム語以降、アクセントのない短母音の弱化が進み、後期アラム語では多くの方言で消失した[17]。中期アラム語以降、母音 e o が発生し、また母音の長短の区別が失われた。一部の方言ではさらに ɛ ɔ が発生して7母音になった[18]。7-9世紀になるとダイアクリティカルマークによる母音表記のシステムが地域ごとに4種類作られるが[19]、ティベリア式とネストリウス式では7母音、バビロニア式では6母音、ヤコブ派式では5母音の区別がなされる[20]。
名詞・形容詞・分詞は性(男性・女性)、数(単数・複数)、および定性で変化する。格は区別されない[21]。
名詞・形容詞はヘブライ語と同様の絶対形と連語形(合成形、所属形)のほかに強調形が存在する。強調形は起源としては定冠詞 aː が後置された形であり[22]、古くは定性があることを示した。それに対して絶対形は不定のものを示し、連語形では限定する名詞によって定性が決定された。しかし、後期アラム語では強調形が定性の有無にかかわらず使われるようになり、絶対形と連語形は衰退した。ただし、形容詞および分詞においては絶対形が叙述用法の形として生き残った[21]。形容詞は修飾する名詞の後に置かれ、修飾する名詞と性・数・定性を一致させる。指示代名詞も後置される[23]。
人称代名詞は性・数・人称によって10通りの形が存在する。独立した人称代名詞のほかに接尾語形がある[24]。
動詞は二子音・三子音または四子音からなる語根があり、母音のパターンと接頭辞・接中辞によっていくつかの語幹が作られる(アラビア語の派生形と同様)。動詞は3つの人称と2つの性(一人称を除く)、2つの数によって人称変化する。完了形、不完了形、命令形、不定形、能動分詞、受動分詞があり、帝国アラム語までは指示形もあった。分詞とコピュラを組み合わせて複合時制が作られた。後期アラム語では完了形で過去を、分詞で非過去を、不完了形で目的や意志などを表すように変化した[25]。
語順は一定でないが、多くの方言ではVSO型がもっとも無標の形である。帝国アラム語ではアッカド語の影響によって、しばしば動詞が最後に置かれる[26]。主語は特に言う必要がなければ省略される。動詞は主語の人称・性・数に一致するが、主語が動詞に後置される場合はしばしば複数の主語に単数の動詞が使われたり、女性の主語に男性形の動詞が使われたりする。主語が前置される場合はこのような不一致はほとんど見られない[27]。
紀元前3世紀頃から後のアラム語は2つのグループに分けられる。
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