選択的スプライシング
ウィキペディア フリーな encyclopedia
選択的スプライシング(せんたくてき-、Alternative Splicing)とは、DNAからの転写過程において特定のエクソンをとばしてスプライシングを行うことである。択一的スプライシングとも呼ばれる。
遺伝子にはアミノ酸配列に関する情報を含む核酸塩基配列(エクソン)が遺伝情報を含まない配列(イントロン)によっていくつかに分断されている。通常、DNAからmRNAへの転写が行われる際にはこれらのすべてが順に転写されていく。その後、転写生成物(mRNA前駆体)からイントロン部分の切り捨てが行われてエクソン部分が連結し成熟mRNAが出来上がるが、この不要な部分の切り捨ての過程をスプライシングと呼んでいる。
しかし、時にスプライシングを行う部位・組み合わせが変化し、複数種の成熟mRNAが生成することがある。これを選択的スプライシングと呼び、ひとつの遺伝子から多数の生成物が生じてくることになる。選択的スプライシングによってスプライスバリアントまたはスプライシングバリアント(splice/splicing variant)と呼ばれる変異タンパク質が生成される。
選択的スプライシングは真核生物における正常な現象であり、ゲノムにコードされるタンパク質の多様性を大きく増大させる[1]。ヒトでは、複数のエクソンからなる遺伝子のうち約95%が選択的スプライシングを受ける[2]。選択的スプライシングには多数の形式が観察されているが、最も一般的な形式はエクソンスキッピング(英語版)である。この形式では、特定のエクソンが特定の条件下や組織ではmRNAに組み込まれ、他の場合にはmRNAから省かれることとなる[1]。
選択的スプライシングを受けたmRNAの産生は、一次転写産物自身に存在するシスエレメント(シスに作用する)、そしてそれらに結合するタンパク質(トランスに作用する)のシステムによって調節される。関与するタンパク質には、特定のスプライス部位の利用を促進するスプライシング活性化因子や、特定の部位の利用を低下させるスプライシング抑制因子が含まれる。選択的スプライシングの機構はきわめて多様であり、特にハイスループットな技術の利用によって新たな例が発見され続けている。研究者らは、スプライシングに関与する調節システムを完全に解明し、ある遺伝子から特定の状況下で産生されるスプライシングバリアントが「スプライシング・コード」によって予測できるようになることを望んでいる[3][4]。
異常なスプライシングバリアントは疾患にも関与しており、ヒトの遺伝子疾患のかなりの部分がスプライシングバリアントによるものである[3]。異常なスプライシングバリアントはがんの発生にも寄与していると考えられており[5][6][7][8]、スプライシング因子の遺伝子はさまざまなタイプのがんで頻繁に変異が生じている[8]。