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複製起点認識複合体または複製開始点認識複合体(ふくせい きてん/かいしてん にんしきふくごうたい、英: origin recognition complex、略称: ORC)は、ATP依存的に複製起点に結合する、複数サブユニット(6サブユニット)からなるDNA結合複合体であり、すべての真核生物と古細菌に存在する。この複合体のサブユニットは、ORC1、ORC2、ORC3、ORC4、ORC5、ORC6遺伝子によってコードされている[1][2][3]。ORCは真核生物におけるDNA複製の中心的な構成要素であり、細胞周期を通じて複製起点のクロマチンに結合したままである[4]。
ORCはゲノム全体にわたってDNA複製を指揮する因子であり、複製の開始のために必要である[5][6][7]。複製起点に結合したORCは、Cdc6、Tah11(Cdt1)、Mcm2-Mcm7複合体(MCM)を含む、複製前複合体(pre-RC)の組み立ての基礎として機能する[8][9][10]。G1期におけるpre-RCの組み立ては、S期のDNA合成に先立つ染色体の複製ライセンス化に必要である[11][12][13]。細胞周期によって調節されたサイクリン依存性キナーゼCdc28によるOrc2、Orc6、Cdc6、MCMのリン酸化は、DNA複製の開始、G2/M期中の再開始の防止を調節している[4][14][15][16]。
ORCは細胞周期を通じて複製起点に結合した状態であるが、有糸分裂の終盤とG1期の初期にだけ活性がある。
酵母では、ORCは接合型に関する遺伝子座Hidden MAT Left(HML)とHidden MAT Right(HMR)のサイレンシングの確立にも関与している[5][6][7]。ORCは、サイレンシングタンパク質Sir1をHMLとHMRのサイレンサーへリクルートすることによって、転写的にサイレンシングされたクロマチンの組み立てに関与する[7][17][18]。
Orc1とOrc5がATPを結合するが、ATPアーゼ活性を持つのはOrc1だけである[19]。Orc1のATP結合は、ORCのDNAへの結合に必要であり、細胞の生存に必須である[10]。Orc1のATPアーゼ活性はpre-RCの形成に関係している[20][21][22]。Orc5のATP結合は、ORC全体としての安定性に重要である。複製起点への結合にはOrc1からOrc5までのサブユニットのみが必要であり、Orc6は形成されたpre-RCの維持に必要である[23]。ORC内の相互作用からは、Orc2-3-6がコア複合体を形成していることが示唆される[4]。
ORCには次のようなタンパク質が存在している。
出芽酵母
(Saccharomyces cerevisiae) |
分裂酵母
(Schizosaccharomyces pombe) |
キイロショウジョウバエ
(Drosophila melanogaster) |
脊椎動物 |
---|---|---|---|
ORC 1-6 | ORC 1-6 | ORC 1-6 | ORC 1-6 |
Cdc6 | Cdc18 | Cdc6 | Cdc6 |
Cdt1/Tah11/Sid2 | Cdt1 | DUP | Cdt1/RLF-B |
Mcm2 | Mcm2/Cdc19/Nda1 | Mcm2 | Mcm2 |
Mcm3 | Mcm3 | Mcm3 | Mcm3 |
Cdc54/Mcm4 | Cdc21 | DPA | Mcm4 |
Cdc46/Mcm5 | Mcm5/Nda4 | Mcm5 | Mcm5 |
Mcm6 | Mcm6/Mis5 | Mcm6 | Mcm6 |
Cdc47/Mcm7 | Mcm7 | Mcm7 | mcm7 |
古細菌のORCとMcmは単純化されており、そのためpre-RCも単純である。真核生物のように6つの異なるMcmタンパク質が擬対称のヘテロ六量体を形成するのではなく、古細菌のMCMの6つのサブユニットはすべて同一である。通常、Cdc6とOrc1の双方と相同なタンパク質が複数存在しているが、その一部が双方の機能を果たす。真核生物のORCとは異なり、常に複合体を形成しているわけではない。事実、古細菌のORCが複合体を形成するときは、多様な複合体が形成される。Sulfolobus islandicusは、複製起点の1つを認識するためにCdt1のホモログも利用する[25]。
自律複製配列(autonomously replicating sequences、ARS)は出芽酵母で最初に発見されたもので、ORCが正しく機能するために不可欠である。これらの100–200塩基対の配列は、S期の間の複製活性を促進する。ARSは出芽酵母の染色体のどの場所にでも配置することができ、配置された部位からの複製を促進する。中でも11塩基対の高度に保存された配列(Aエレメントと呼ばれる)が出芽酵母での起点としての機能に必須であると考えられている[24]。ORCはもともと、出芽酵母のARSのAエレメントに結合するものとして同定された。
動物細胞のARSははるかに謎めいており、保存配列はまだ発見されていない。動物細胞では、複製起点はレプリコンクラスターへと集合する。各クラスター内ではレプリコンの長さは類似しているが、クラスター間ではレプリコンの長さは大きく異なる。これらのクラスターはS期に同時に活性化される[24]。
ORCはMCM複合体(pre-RC)のDNAへのローディングに必須である。この過程は、ORC、Cdc6、Cdt1に依存しており、ATPによって制御されたいくつかのリクルートイベントを伴う。まず、ORCとCdc6は複製起点のDNA上で複合体を形成する。ORC/Cdc6複合体は、この部位へCdt1/Mcm2-7をリクルートする。ORC/Cdc6/Cdt1/Mcm2-7からなる巨大な複合体(OCCM複合体)が形成されると、ORC/Cdc6/Cdt1は一体となってMcm2-7をDNAへロードし、この過程でCdc6によってATPが加水分解される。Cdc6のATPアーゼ活性はORCと複製起点DNAの双方に依存している。これによってCdt1のDNA上での安定性が低下し、ロードされたMcm2-7を残して複合体から解離する[24][26][27][28]。Mcm2-7は最初にロードされた状態ではDNAを完全に取り囲んでおり、ヘリカーゼ活性は阻害されている。S期には、Mcm2-7複合体はヘリカーゼのコファクターであるCdc45、GINSと相互作用し、複製起点のDNAを巻き戻して一本鎖DNAを作り出し、複製を開始させる。複製を双方向で行うために、この過程は複製起点で2度起こる。どちらのローディングも1つのORCによって媒介され、1度目のイベントと同じ過程が行われる[29]。これまでにORC、MCM、そして中間体となるOCCM複合体の構造が解かれている[30]。
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