術中覚醒
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術中覚醒(じゅつちゅうかくせい、英: intraoperative awareness)は、全身麻酔中のまれな合併症であり、手術中に患者の意識がさまざまなレベルにまで戻ってしまうことを指す。他に麻酔中覚醒(awareness under anesthesia)または全身麻酔中の偶発的覚醒(accidental awareness during general anesthesia:AAGA)とも呼ばれる。長期的な記憶として残らない術中覚醒も起こりうるが、被害者が手術に関連した出来事を覚えている(明示的想起(英語版)を伴う術中覚醒)こともある[1]。これは術中覚醒記憶とも呼ばれる。麻酔・集中治療領域における「意識」の問題は、かつては覚醒遅延、すなわち麻酔や鎮静から中々覚めないことであったが、麻酔薬の改良やモニタリングの進歩などに伴い、覚醒遅延の問題が減少すると共に逆に新たに問題となり始めた合併症である[2]。
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術中覚醒記憶は、壊滅的な心理的影響をもたらす可能性のあるまれな病態である[1][3]。手術中に目が覚めてしまうことはないか?というのは、患者が良く口にする不安の1つである[4]。メディアではよく知られるようになったが、調査によると、発生率は0.1~0.2%にすぎない。患者は、漠然とした夢のような状態から、完全に覚醒し、固定され、手術による痛みを伴う状態まで、さまざまな経験を報告する。術中覚醒は通常、患者が必要とする量に対して麻酔薬が不十分であったために起こる。危険因子としては、麻酔薬(例:神経筋遮断薬の使用、全静脈麻酔[5]、技術的/機械的エラー)、手術(例:心臓手術、外傷/緊急手術、帝王切開)、または患者に関連したもの(例:心血管系予備能の低下、薬物乱用歴、術中覚醒既往)がある。
現在のところ、麻酔下の意識と記憶のメカニズムは、多くの仮説があるものの、不明である。しかし、バイスペクトラルインデックス(BIS)や呼気終末麻酔ガス濃度(end-tidal anesthetic concentration)による麻酔深度の術中モニタリングは、術中覚醒の発生を抑えるのに役立つ。また、高リスク患者に対しては、ベンゾジアゼピン系薬剤による前投薬、完全な筋弛緩状態の回避、患者の期待する鎮静度の調節など、多くの予防法が考えられている。診断は、術後に潜在的な覚醒エピソードについて患者に尋ねることによって行われ、修正Brice質問票を用いるのが有用である[1]。術中覚醒記憶の一般的だが壊滅的な合併症は、手術中に経験した出来事から心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症することである。術中覚醒記憶後のPTSDの予防と治療には、迅速な診断とカウンセリングおよび精神科治療への紹介が重要である[6]。