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かつて大阪市浪速区にあった劇場 ウィキペディアから
新花月(しんかげつ)は、かつて大阪府大阪市浪速区の歓楽街「新世界」のジャンジャン町(ジャンジャン横丁/南陽通り商店街)にあった劇場である。
主に松竹芸能系の若手の登竜門的な存在の場であったが、吉本興業など他のプロダクションに現在所属するベテラン芸人の中にも、初舞台を踏んだ者は少なくない。
「温泉劇場」(通称「温劇」)に併設していた演芸場であり、当初は「温泉演芸場」の名で開場した[1]。当初の経営者は矢野興行部[1]。新生プロダクション[注釈 1]が芸人を配給していた。3代目桂米朝によると、漫談家の花月亭九里丸が「松竹のええメンバーを揃えるさかいというて温泉演芸場の若旦那に話をつけ」て、前夜祭で入場料を上げると超満員になったが、初日には激減し、後には九里丸が関与する以前よりも下げる結果になったという[1]。1957年6月に九里丸が吉本興業会長・林正之助に掛け合って「新花月」の名に改名させた(当時吉本興業は寄席経営を再開する前だった)[1]。
このため、新花月と名乗ってはいたが、芸人の配給や番組編成は新生プロ(のち合併して松竹新演芸から松竹芸能)がおこなっていた。当初は花月亭九里丸を中心に浮世亭歌楽・ミナミサザエ、浮世亭夢丸・吾妻ひな子、芦乃家雁玉・林田十郎・秋山右楽・左楽、かしまし娘等が出演していたが、1958年5月に道頓堀角座が開場すると看板芸人、ベテランは角座に出演するようになった[注釈 2]。
新世界といった立地条件から客層が悪いことで知られ、罵声や野次が絶えなかった[2]。このためこの劇場の客は大阪一厳しい客といわれ(特に落語)、刑務所慰問を得意にした東京の4代目鈴々舎馬風が「泣いて帰った」という伝説があるとされる[3]。ゆえに松竹芸能はこの小屋を角座や神戸松竹座に出演する芸人達の養成施設と捉えた。したがってプログラムも若手中心となっていったが[注釈 3]、[要出典]3代目桂米朝は「あの小屋はあそこ独特の漫才師が人気あったンやね。若手を前へ並べてもお客が笑うかいな。それで看板どころ一本ぐらい出してな。」と指摘していた[1]。米朝によれば、飛田遊廓が近くにあったため、その時間待ち(遊廓は午後11時頃から利用料を下げていた)で入ってくる客が多くいたという(新花月側も1日で3回目となる時間帯の料金は割り引いていた)[1]。後年松竹芸能の看板となった芸人のほとんどは新人時代この小屋に出演し、鍛えられていた。また現在活躍する松竹所属以外の芸人の中にも、ここで修行を積んだ者は多い。
ここで初高座を踏んだ笑福亭鶴光によると、最初の数日間は「やめやめ」といった罵声ばかりで師匠の6代目笑福亭松鶴に相談したところ、「おまえ、客を見下してるやろ」という指摘とともに噺の前に「誠心誠意頭を下げて」挨拶することを指導され、それを実行した翌日の高座からは客が聴いてくれるようになったという[4]。やがて顔が覚えられるようになると、高座でささやかな祝儀を渡されたり、劇場帰りに近くの立ち飲み屋で呼ばれて酒食を奢られるなど、人情に富んだ振る舞いを客から受けたことを記している[4]。また、松竹芸能社長だった勝忠男は、3代目桂春団治はこの劇場では合わずに「とんどった」と評する一方、6代目松鶴は道頓堀角座よりも新花月の方が(高座が)「まだよかった」と述べ、『相撲場風景』の口演では「ガラが悪いのを、もうひとつガラを悪くしよンねン」と馴染んでいた様子を伝えている[5]。
なお年に数回女流大会が行なわれていた。
1968年に火事で一部焼失。1981年に一度閉館。1987年に再開場するも1988年9月に完全閉館となった。演芸興行の客入りは悪かったが、週末に行った「演歌祭り」が好評で、これがのちの通天閣歌謡劇場、通天閣劇場TENGEKIに繋がった。
「花月」の名前がついているが、概要の項にあるとおり吉本興業とは一切関係がない。
また、松竹系といわれていたが、松竹直営でも松竹グループでもなく、松竹芸能が芸人を提供していただけであり、実際の経営は地場企業である新世界興業株式会社がおこなっていた[要出典]。
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