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ティムルレンギア(学名:Timurlengia "ティムール大帝が由来"の意味)は、ウズベキスタンに分布する後期白亜紀チューロニアン階のビセクティ層から産出した、ティラノサウルス上科に属する獣脚類の恐竜の属。全長3 - 4メートル、体重約170キログラムと推定されている。基盤的な属であるが、内耳の形態が派生的な属のものと類似しており、既に鋭敏な感覚を有していたことが推測されている[1]。
ティムルレンギア | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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復元図 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Timurlengia Brusatte et al., 2016 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
種 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
1944年以降、単一の骨からなるティラノサウルス上科の化石要素がソ連あるいはロシアの研究者らによりビセクティ層から記載された[2]。2004年には、首の筋肉を保持し頭骨と外耳道を保護する頭蓋をチームが発見した。ティラノサウルス類の専門家スティーブン・ブルサッテが2014年に明らかに新種であると特定するまで、頭蓋はロシア科学アカデミー動物学研究所で段ボール箱に保管されていた[3]。
2016年にスティーブン・ルイス・ブルサッテとアレクサンダー・アウェリアノフ、ハンス・ディエター・スース、エイミー・ミューアそしてイアン・B・バトラーが模式種ティムルレンギア・エウオティカを命名・記載した。属名は中央アジアのティムール朝を築いたティムールにちなむ。種小名はギリシャ語で「耳が発達した」の意[2]で、詳細なCTスキャンにより、低周波の音も聞き取ることのできる長い内耳道が示されたためである[3]。
本種は頭蓋からなるホロタイプ標本 ZIN PH 1146/16 に基づく。単一の個体に属さないで2012年に記載された骨[4]にも、本種に割り当てられたものがある。これらには以下の標本が含まれる。
これらはビセクティ層にティラノサウルス上科の単一の分類群が存在したという仮定の下で提唱された[2]。
ティムルレンギアはウマと同等の体躯の獣脚類恐竜だったことが数多くの化石から示唆されており、全長3 - 4メートル、体重170 - 270キログラムと推定されている[5]。しかしこれらは亜成体の個体であり、完全に成長しきった個体の数値ではない。標本 ZIN PH 1239/16 はより大型の成体の個体の標本である[2]。
2016年には複数の明瞭な傾向が確立されており、その全てがホロタイプの頭蓋に関わるものである。頭骨後方の上側中央の骨である上後頭骨がダイヤモンド状の下方への突起を有し、大後頭孔には到達しない。基後頭骨は極端に短い基底結節をなし、後頭関節丘の3倍の高さに達する。卵円窓と耳の前庭は、耳の領域の奥深くまで貫通する、広い出口を持った漏斗状の窪みを頭蓋の側面の壁に形成する。半規管が発達し、内耳は大きい[2]。湾曲の小さい脳や長いうずまき細管、中脳の盛り上がりは派生的ティラノサウルス科に共通する特徴であり、特にアリオラムスと類似する[2]。上後頭骨の突起や基後頭骨の突起はシオングアンロンのものと共通し、上顎骨 ZIN PH 676/16 もまたシオングアンロンの上顎骨に酷似している[2]。すなわち、基盤的なティラノサウルス上科と派生的なティラノサウルス(上)科の両方の特徴を持ち合わせるミッシング・リンクということである[6]。
産出した化石が断片的であるため、ティラノサウルス上科に見られる足の特徴であるアークトメタターサルの有無や前肢の指の本数が不明であるほか、四肢そのものの長さも判明していない。記載論文の骨格図ではシオングアンロンとティラノサウルスの中間のような容貌で描写されている[2]。
記載論文では、ホロタイプ標本のみを用いた系統解析、その他のバラバラの標本を用いた解析、両方を用いた解析の3通りの解析が行われた。そのいずれにおいてもティムルレンギアはティラノサウルス上科の基盤的位置に配置され、シオングアンロンの姉妹群の可能性があるとされた。両者はともに、ティラノサウルス科の姉妹群でありうる吻部の長い分類群を代表する可能性がある[2]。
ティムルレンギアの重要性は、初期の小型ティラノサウルス上科の恐竜から、ティラノサウルスのような後期白亜紀の北アメリカやアジアで典型的な巨大なティラノサウルス科への、進化の過程を示すという点にある。本属はティラノサウルスの直系の祖先ではないと考えられている[5]。ティムルレンギアは後期白亜紀前期のチューロニアンの中後期にあたる約9000万年前に生息していた。この時代は派生的なティラノサウルス科が出現する直前であった。ティラノサウルス上科のタイムラインには約2000万年に渡る「ティラノサウルス類のギャップ」が存在し、この時代を境にティラノサウルス上科は小型のハンターと頂点捕食者に二分されている。ティムルレンギアの発見はこのギャップを埋めることとなった[2][6]。ティムルレンギアの示す特徴には、当時においてもティラノサウルス上科が大型化していなかったこと、しかし一方で白亜紀最後の種の主要な脳と感覚器官の特徴は既に進化していたことがある。元々これらの特徴は大型動物へ進化した巨大なティラノサウルス科に特有の特徴と考えられていた[7]。ティラノサウルス上科は後期白亜紀に巨大な体を発達させた。頂点捕食者としての地位に到達した理由の1つは、小型だった時代に初めて獲得した脳と鋭敏な感覚によるものだった可能性が高い[8][6]。ティムルレンギアの小さい体躯は、ティラノサウルス類がその進化史のうち最後の2000万年でのみ大型化したことを示唆している[9]。大型化のきっかけは不明である[2]。
化石の発見者の1人であるハンス・ディエター・スースの仮説によると、ティラノサウルス類は最初に派生的な頭部を発達させたことがティムルレンギアの頭蓋から示されている。ティムルレンギアの頭骨はティラノサウルスのものよりも遥かに小さいものの、鋭い視覚・嗅覚・聴覚に繋がったであろう洗練された脳が示唆された。当時ティラノサウルス類が鋭い感覚能力と認識能力を発達させた一方、カルノサウルス類といった他の大型肉食恐竜は生息環境から去るか絶滅し、その生態的地位が空白となり、ティラノサウルス類は頂点捕食者へ進化することが可能となった[5][10]。ティムルレンギアの頭はより大型のティラノサウルス類と比較して含気性が低い。後の世代における骨の空洞の増大が、頭骨の軽量化や、巨大な体躯にもかかわらず優れた聴覚を維持することへの適応だった可能性がある[2]。
以下は2019年に行われた系統解析に基づくクラドグラム[11]。
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骨格に基づくと、ティムルレンギアは肉を削ぎ落とす刃のような歯を有する追跡型の捕食動物であったとみられている[5]。三半規管の頑強さは機敏さに関連した可能性がある。ティムルレンギアのうずまき細管は長く、内耳の骨迷路と同じ高さまで達している。これは低周波の音波を聴き取ることに適しており、ティムルレンギアは同種内のコミュニケーションにおいて低い声を用いていた可能性が示唆されている[2]。また、低周波の音への適応は遠く離れた獲物の足音の感知にも役立ったとされる[6]。こうした鋭敏な感覚器は子孫筋のティラノサウルス科にも共通する特徴であり、彼らの大型化を促す要因となったようである[6][12]。
その体躯から、ティムルレンギアは当時の頂点捕食者ではなかったと推測されている。田中康平らは同じくビセクティ層から産出していた断片化石の研究を行い、2021年にカルカロドントサウルス科に分類してウルグベグサウルスと命名した。ウルグベグサウルスはティムルレンギアよりも大型の獣脚類恐竜であり、遅くとも約9000万年前までカルカロドントサウルス科はティラノサウルス上科よりも上位の高次消費者の地位にいたと提唱されている[1]。
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