鯨偶蹄目

哺乳綱の1目 ウィキペディアから

鯨偶蹄目

鯨偶蹄目(くじらぐうていもく・げいぐうていもく、Cetartiodactyla)は、哺乳綱の1クジラ偶蹄目とも書く。鯨偶蹄類鯨偶蹄上目などとすることもある。カナ書きの原則ではクジラウシ目とされることもある[要出典]

東工大岡田典弘のグループが確立した遺伝子を用いた手法、いわゆるSINE法(レトロポゾン法)により、鯨類が旧分類の偶蹄目、中でも特にカバ科と特に近縁である事が分子系統解析で明らかになった事により偶蹄目と鯨目をあわせる事で設けられた目である[4][5][6]

学名 Cetartiodactyla は、Cetacea(鯨目)と Artiodactyla(偶蹄目)の合成語である。なお上述の発見以降は、国際動物命名規約における先取権の原理を適用して偶蹄目(Artiodactyla)を鯨類+旧偶蹄類の意味に用いる場合もある[7]

分類の歴史

従来より偶蹄目と鯨目は、左右1対の気管支とは別に、右側のみ気管から分岐し右肺へと達する管が存在するという共通した特徴をもっていることが知られていた[8]。そのためこの両者は近縁と考えられていて、この2目を姉妹群とする説はあった(ただし、必ずしも広く認められていたわけではない)。これら2目からなる系統の名として Cetartiodactyla が使われ、分類階級は上目、または、下綱と目の間の名前のない階級とされた。

1994年以降、ミトコンドリアDNA法などにより、鯨目の姉妹群はカバである可能性が示唆されていた。のちに鯨類とカバからなる系統は Whippomorpha[9] または Cetancodonta[10] と名づけられた。

1997年、島村満らは、偶蹄目と鯨目が姉妹群なのではなく、鯨目が偶蹄目の内系統であり、偶蹄目は側系統であることを明らかにした[11]。同年にC. Montgelardらは、このクレードに対して“Cetartiodactyla”という名称を使用した[1]

1999年、二階堂雅人らは、SINE法(反復配列の違いを比較する方法の一種)により、偶蹄目と鯨目の詳細な系統を明らかにした。従来から示唆されていた通り、鯨目の姉妹群はカバだった[12]

SINE法による結果は、その後の研究でも支持された。これらに従い、側系統となった偶蹄目は廃し、Cetartiodactyla を目とみなすことが多くなった。なおこのような場合、鯨目を偶蹄目に含めて偶蹄目を単系統にして存続させることも考えられる[7][13]

系統樹

分子系統解析から以下の系統樹が推定されている[14][15][16][17][18][5]

鯨偶蹄目偶蹄目

核脚亜目Tylopoda ラクダ科ラクダリャマ

Artiofabula

猪豚亜目Suina イノシシ科ブタイノシシ)、ペッカリー科

Cetruminantia
反芻亜目

マメジカ下目Tragulina

真反芻下目Pecora ジャコウジカ科シカ科シカトナカイシフゾウ)、ウシ科ウシアンテロープヤギヒツジ)、キリン科キリンオカピ)、プロングホーン科

Ruminantia
鯨河馬形類

カバ下目Ancodonta カバ科カバコビトカバ

鯨類Cetaceaヒゲクジラ小目シロナガスクジラ)、ハクジラ小目マッコウクジライルカ

Whippomorpha (Cetancodonta)
Cetruminantia
Artiofabula
Cetartiodactyla (Artiodactyla)

新しい系統による新しい知見

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メソニクス目のシノニクスSinonyx jiashanensis)の骨格標本。国立科学博物館の展示。
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パキケトゥス・アトッキ(Pakicetus attocki)の骨格標本。国立科学博物館の展示。

鯨類とカバの共通点

以下のような共通の特徴は、従来は水生化などにともなう収斂進化と考えられていたが、新しい系統により、水生依存の強い祖先を同じくすることによる共有派生形質であることが明らかになった。

  • 水生。特に、カバと初期の鯨類は淡水生である。
  • 水中で育児をする。
  • ほとんどがない(カバはほとんど無毛、鯨類は一部の種を除き完全に無毛である)。
  • 皮脂腺がない。
  • 水中で音を使ってコミュニケートする。
  • 睾丸陰嚢にない(カバでは鼠蹊部、鯨類では腹腔内にある)。
  • 複胃を持つ[19]

メソニクスの位置づけ

絶滅哺乳類であるメソニクス目は、両脚に蹄を持ち、第3指・第4指の2本を軸に体重を支えるなどといった骨格の特徴から偶蹄目及び鯨目に近縁といわれており、また歯の形態が初期の鯨類に似ていることなどから、従来鯨類の祖先か、祖先に近縁と考えられていた。しかし、後肢かかと関節にある距骨の上下端に偶蹄目の特徴である滑車状の構造がないため、近縁ではあるものの鯨偶蹄目に属する系統ではなく、鯨類の祖先ではないという見方が強まった[20]。さらにまた、パキスタンから出土したパキケトゥス・アトッキ Pakicetus attocki (West, 1980) が完全に陸上を走り回ることができる陸上動物としての体制をもち、距骨に滑車状の構造が確認されたこと、内耳耳骨に鯨目の特徴である肥厚が出現していることの2点から、陸上生活をしていた鯨類の祖先が偶蹄目の形質を持っていたことがほぼ確実視されるようになった。こうして、現在ではメソニクス類と鯨類との共通点は、収斂進化によるものであるとみなされている。

分類

脚注

出典

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