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インスリン製剤(インスリンせいざい)とは、膵臓から分泌される血糖降下作用を持つペプチドであるインスリンを製剤化したものである。黎明期にはウシやブタのインスリンが、日本では魚類やクジラ由来のインスリンが用いられたが1970年代終盤よりヒトインスリンが用いられる様になった。更に1990年代後半からは、アミノ酸を改変した超速効型または持効型インスリンが上市された。
一般的な副作用は、低血糖である[1]。その他の副作用としては、注射部位の痛みや皮膚の変化、血中カリウム低下、アレルギー反応などが考えられる[1]。妊娠中の使用は、胎児には比較的安全とされる[1]。
インスリンは、1922年にチャールズ・ベストとフレデリック・バンティングによってカナダで初めて薬として使用された[2]。プロタミンインスリンは1936年に、NPHインスリンは1946年に初めて作られた[3]。世界保健機関(WHO)の必須医薬品リストに掲載されている[4]。
速効型インスリン(そっこうがたインスリン)またはレギュラーインスリン(Regular insulin;R)は、短時間作用型インスリンの一種である[5]。1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病、糖尿病性ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖症候群等の糖尿病合併症の治療に使用される[6]。また、グルコースと共に、高カリウム血症の治療にも使用される[7]。通常、皮下注射で投与されるが、静脈や筋肉に注射して使用される事もある[5]。効果の発現は通常30分後で、通常8時間持続する[6]。
中間型インスリン(ちゅうかんがたインスリン、Neutral Protamine Hagedorn insulin,NPHインスリン、中性プロタミンハーゲドンインスリン;N)は、イソフェンインスリン(Isophane insulin)とも呼ばれる中時間作用型インスリンであり、糖尿病患者の血糖値コントロールを助ける為に投与される[1]。1日1~2回、皮下注射で使用する[3]。効果は通常90分以内に現れ、10~16時間程度持続する[1]。
速効型インスリンと中間型インスリンが混合された製剤も存在する[5]。
ヒトインスリン製剤にはフェノールが含まれ六量体(弛緩(relaxed)形態;R6)と結合しているが[8]、注射後にフェノールが解離して緊張(tense)形態の六量体(T6)に変化し、徐々に二量体に分離して更に単量体となり血中に放出される[9]。
インスリンアナログとは、インスリンと同じ生理作用をもちながら薬物動態を改善した医薬品であり、インスリンの構造を人工的に変更したものである(アナログは「似せたもの」を意味する)。
糖尿病の治療に従来使われていた速効型インスリン(レギュラーインスリン)や中間型インスリン(NPHインスリン)は皮下注射後30分経たないと血中のインスリン濃度が上昇しない。このタイムラグの理由は、これらのヒトインスリン製剤が溶媒内で互いに結合し六量体を形成する為、単量体に解離し血中に入るまで時間がかかるからである。そして、この六量体形成の原因はインスリン分子の28-29番目のアミノ酸にある。 これは患者にとって大きな問題である。自分がいつ食事をとるか予測して30分前に注射するのは社会生活上容易ではない上、インスリンを注射したら30分後に食事をとらなければ低血糖症に陥る危険性があるからである。注射直後に食べてよい超速効型インスリン(ちょうそっこうがたインスリン、Q)は糖尿病患者のライフスタイルに柔軟性をもたらした。
また強化インスリン療法で就寝前に中間型インスリンを注射した場合など、2時間後に効果がピークとなる為、深夜に低血糖になったり、軽度の低血糖からの翌朝の高血糖(ソモジー効果)を引き起こすことがある。逆に就寝中にインスリン不足が起こると、拮抗ホルモンにより翌朝、高血糖となるケースもある(暁現象)。これらを回避する方法としてインスリンポンプで微量のインスリンを少量ずつ時刻ごとに用量を変えながら注射するCSII(continuous subcutaneous insulin infusion)があるが、高価であり皮下注射で代用したいと考えられてきた。その為、ピークがなく24時間以上安定してゆっくり少しずつ効く持効型インスリン(じこうがたインスリン)が求められていた。
速効型インスリンまたは中間型インスリン製剤は、従来より糖尿病の長期管理に使用されてきた[1]他、糖尿病性ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖症候群という2つの糖尿病性緊急症に対する治療法として選択され得る[1]が、2022年時点では、長期管理には持効型製剤が、緊急症の治療には超速効型製剤が適していると思われる。また、高カリウム血症の患者のカリウム値を下げる目的でブドウ糖と併用する事もある[7]。
1型糖尿病患者の薬物療法における唯一の方法と見られている。インスリンはタンパク質で消化管内で速やかに分解される為、経口投与は不可能であり、皮下注射により投与される。インスリン製剤は、作用発現時間、作用持続時間、原料となる動物種(牛、豚、魚、人)によって分類されている。組み換えDNA技術によってヒト型インスリンが開発されてからはヒト型を用いるのが一般的である。ヒト型インスリン は大腸菌や酵母菌にヒトインスリン遺伝子を導入して生産している。
インスリン製剤は作用発現時間や作用持続時間によって超速効型、速効型、中間型、混合型、持効型溶解に分類される。持続型 (ultralente, U)も存在したが、2000年代半ばまでで使われなくなった[10][11][12]。インスリン製剤は使い捨てのペン型製剤とカートリッジ製剤、バイアル製剤がある。本項ではインスリンアナログも併せて記載する。
一般名 | 発現時間(min) | 最大作用時間(hr) | 持続時間(hr) |
---|---|---|---|
インスリン アスパルト | 10〜20 | 1〜3 | 3〜5 |
インスリン リスプロ | 〜15 | 0.5〜1.5 | 3〜5 |
インスリン グルリジン | 〜15 | 0.5〜1.5 | 3〜5 |
発現時間(hr) | 最大作用時間(hr) | 持続時間(hr) | |
---|---|---|---|
N社 | 0.5 | 1〜3 | 8 |
L社 | 0.5〜1 | 1〜3 | 5〜7 |
発現時間(hr) | 最大作用時間(hr) | 持続時間(hr) | |
---|---|---|---|
N社 | 0.5 | 2〜8 | 24 |
L社 | 0.5〜1 | 2〜12 | 18〜24 |
発現時間(hr) | 最大作用時間(hr) | 持続時間(hr) | |
---|---|---|---|
N社 | 1.5 | 4〜12 | 24 |
L社 | 1〜3 | 8〜10 | 18〜24 |
2014年(平成26年)7月10日、日本の厚生労働省は、注射剤について配合剤である事に気付かず重複して投与する恐れを防ぐ為の対策として通知を発行した[20]。
インスリン注入には2通りの方法がある。日本ではペン型注射器を使用するのが一般的だが、米国においては日本よりもインスリンポンプの普及が遥かに進んでいる。ファイザー社が発売した吸入インスリンは、2007年秋に「市場規模が少ない」事を理由に発売休止となった。
速効型インスリンはヒトインスリンに亜鉛を加えて六量体化させた澄明な製剤である。
NPHインスリンは速効型インスリンにプロタミンと亜鉛を加えて結晶化させた製剤であり、白濁している。
その他の超速効型、持効型インスリンも澄明であるが、プロタミンとの混合製剤(中間型化)は白濁している。
自己注射デバイスには、下記の剤形がある。
1923年に国際連盟保健機構(WHOの前身組織)の標準化委員会は、インスリンの1単位(unit:U)を「健康な体重約 2Kg のウサギを24時間絶食状態にし、そのウサギにインスリンを注射して、3時間以内に痙攣を起こすレベル(血糖値:約45mg/dL)にまで血糖値を下げ得る最小の量」と定義した[24]。その後1924年に臨床使用されていたインスリン粉末の実際の力価が調査され、1925年にインスリン乾燥粉末1mgが8単位(international unit:IU)であると再定義された。
製剤には当初40IU/mLや100IU/mL等の様々な濃度の製剤が存在したが[25]:240、2003年にインスリン製剤の濃度が100IU/mLに統一された[26]。それ以来、インスリンアナログ製剤の濃度も100IU/mLであったが、2015年7月、サノフィは製剤特性の改善を理由として300IU/mLの製剤の承認を取得した[27]。
副作用として、低血糖、注射部位の皮膚反応、血中カリウム低下、アナフィラキシーショック(呼吸困難、血圧低下、頻脈、発汗、全身の発疹等)、血管神経性浮腫等が考えられる[1]。
インスリンを用いた血糖管理、糖尿病の治療をインスリン療法という。インスリン療法としては強化インスリン療法とその他の治療法に分けられる。まずはインスリンの適応があるかどうかを判断する。
インスリンの適応があると判断したら、患者の状態を把握し、強化インスリン療法を行うのか、それ以外の治療法を行うのかを判断する。インスリン療法の基本は健常者にみられる血中インスリンの変動パターンをインスリン注射によって模倣する事である。健常者のインスリン分泌は基礎インスリン分泌と、食事後のブドウ糖やアミノ酸刺激による追加インスリン分泌からなっている。これをもっともよく再現できるのは強化インスリン療法であるが、手技が煩雑であるのがネックである。今後の糖尿病管理も強化インスリン療法を行うのなら患者教育でも導入する価値はあるが、手術や処置で一時的に経口血糖降下薬を用いられない場合、生活スタイルから強化インスリン療法を行うのが不可能な場合はその他の療法が選択される。
全ての加療で言える事であるが、自然治癒でない加療である以上は性状に合わせたコントロールを外れると副作用が発生するリスクがある。殊にインスリン療法は全身性の血中処方であり個人でのコントロールでの難しさから絶対的適応例では入院による導入が望ましいといわれている。現行では、相対的適応例におけるインスリン療法の開始や経口血糖降下薬からの切り替えの場合は外来で行い、インスリン量の調節の為外来を頻回にする事で対処する事が多い。外来での導入に関しての危険性を評価するには、
を確認する事が望ましい。これらに該当するようならば糖尿病専門医がいる施設や教育入院を用いないと外来でのコントロールは危険である。
インスリン療法では注意するべき事がいくつかある。インスリンの皮下注射を自分で行う事、血糖自己測定(SMBG)ができる事、シックディの対応、低血糖になった際の対応といった問題を克服する必要がある。入院中は看護師の管理によって教育が不十分でも管理可能だが、退院前にこれらができないと事故につながりかねない。
特に気をつけるのは低血糖である。低血糖発作は初期ならばブドウ糖を摂取する事で改善できるが、低血糖になったからという事で次の投与のインスリンを自己判断で止める場合が多い。低血糖が起こった場合は責任インスリンの量を調節し、再発を予防する。
インスリンの調節中、「ソモジー効果」という現象に出会う事がある。これはインスリン量が過剰である為に低血糖が起こり、その反動としてインスリン以外のホルモンが分泌される事で血糖値が上昇する(血糖値を下げるホルモンはインスリン以外存在しない)。早朝に高血糖となる事が多い。インスリンを増量すると重篤な低血糖発作が発生する。夜中に高血糖発作が起こる前の時間の血糖値を測定すれば判明する。このころに低血糖になっていれば、それはソモジー効果である可能性が高い。
インスリン療法を開始すると膵機能が回復してくる事がある。この目安はインスリン必要量の低下によって判断する。この場合はインスリン療法を中止できる事もある。
αGIのような経口血糖降下薬の中にはインスリンと併用できるものもある。SU剤で二次無効となった時、内服薬を中止せずに就寝前にNを投与する事で糖毒性が解除され、SU薬の効果が再び現れる事もある。
インスリンの生理的分泌パターンを模した、基礎インスリン補充+強化インスリン療法が基本となる[28]。
1日1回の持効型インスリンもしくは1日1~2回の中間型インスリンに、毎食前の超速効型もしくは速効型インスリンを併用する。あるいはCGM(continuous glucose monitoring)を用いたインスリンポンプ療法(CSII)も使用可能である。
強化インスリン療法は、細小血管症および大血管症の抑止に有効である[29]。
軽症例では持効型もしくは中間型インスリン1回注射、あるいは混合型インスリンの朝夕2回注射のみでも有効であり得るが、中等症以上では強化インスリン療法も実施すべきである[32]。
基礎インスリン分泌が保たれているような患者では、超速効型(または速効型)インスリンを食事前に注射する事で強化インスリン療法に準じた治療を行う事が出来る。また頻回のインスリン注射が困難な患者や強化インスリン療法が適応とならない患者(ほとんどが相対的適応)では混合型または中間型の一日1回〜2回投与という方法もある。このような投与法でもインスリン量は0.2単位/kgにて開始し、0.5単位/kgまで増量可能である。中間型を2回打ちする場合は朝:夕を2:1または3:2の比率とする事が多い。中間型インスリンが一日10単位以上の場合は一日二回と分ける事が多い。
体重 | 単位の計算値 | 処方例 | 朝食前 | 昼食前 | 夕食前 | 就寝前 |
---|---|---|---|---|---|---|
50 kg | 5単位 | 5単位 | 0 | 0 | 0 | 5 |
60 kg | 6単位 | 6単位 | 0 | 0 | 0 | 6 |
70 kg | 7単位 | 7単位 | 0 | 0 | 0 | 7 |
体重 | 単位の計算値 | 処方例 | 朝食直前 | 昼食直前 | 夕食直前 | 就寝前 |
---|---|---|---|---|---|---|
50 kg | 10単位 | 10単位 | 6 | 0 | 4 | 0 |
60 kg | 12単位 | 12単位 | 8 | 0 | 4 | 0 |
70 kg | 14単位 | 14単位 | 10 | 0 | 4 | 0 |
体重 | 単位の計算値 | 処方例 | 朝食直前 | 昼食直前 | 夕食直前 | 就寝前 |
---|---|---|---|---|---|---|
50 kg | 9単位 | 9単位 | 3 | 3 | 3 | 0 |
60 kg | 12単位 | 12単位 | 4 | 4 | 4 | 0 |
70 kg | 15単位 | 15単位 | 5 | 5 | 5 | 0 |
血糖値に影響する急性疾患の合併がなく、安定した糖尿病に用いられている方法。測定された血糖値に最も影響を与えるインスリンを責任インスリンと呼び、超速効型インスリンを毎食前に注射している場合、食前に注射したインスリンが次食前の血糖値に対する責任インスリンである。ある日の昼前の血糖値が通常より高ければ、翌日に朝食を取る前に超速効型インスリン量を増やす。夜間血糖値については持効型インスリンが責任インスリンとなる。食事の内容や運動量によって血糖値が変動するので注意が必要になる。超速効型と持効型を用いる場合には、旧来のR/Nに比べて食前低血糖の危険が比較的低い。
R/Nを用いる場合には、朝食前のRは昼食前の血糖を下げ、昼食前のRは夕食前の血糖を下げ、夕食前のRは就寝前の血糖を下げ、就寝前のNは朝食前の血糖を下げると考える。
あらかじめ、病気の状態、血糖値の変動パターン、体重あたりのインスリンの必要量から医師が作成する目安表で、患者自身が4〜8時間ごとに血糖自己測定し、このスライディングスケールに従ったインスリン量を注射する方法。
手術前後、感染症、他の急性疾患で入院している時には、異常事態に適した調節方法であるとされている。
各食前の血糖値に基づいてその時に打つインスリンを決定する方法であり、血糖値の変動が激しくなり易い。本来は食事摂取できない糖尿病患者の血糖コントロールで用いられたプロトコルである。以下に一例を示す。
血糖値(mg/dL) | 処置 |
---|---|
<70 | 50%ブドウ糖20mL静注、またはブドウ糖10g内服 |
70〜150 | stay |
150〜200 | Q4単位皮下注 |
200〜250 | Q6単位皮下注 |
250〜300 | Q8単位皮下注 |
300〜350 | Q10単位皮下注 |
350〜400 | Q12単位皮下注 |
中間型(N)および速効型(R)を用いた旧来の治療法 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
インスリン絶対的適応(基本的にはインスリンが必要)
初期投与量としては0.5単位/kg/dayにて開始し、数日の効果判定後0.7〜1.2単位/kg/dayで維持する場合が多い。
食前血糖値、空腹時血糖値が140mg/dL以上や食後2時間血糖値が200mg/dL以上の場合は責任インスリンの増量を検討する。食前血糖値が70mg/dL以下であれば責任インスリンの減量を検討する。ただし、調節するインスリンの総量は4単位を超えない範囲で行うのが安全である。 インスリン相対的適応(必須ではないがインスリンが必要)
初期投与量としては0.2単位/kg/dayにて開始し、数日の効果判定後0.3〜0.5単位/kg/dayで維持する場合が多い。
食前血糖値、空腹時血糖値が140mg/dL以上や食後2時間血糖値が200mg/dL以上の場合は責任インスリンの増量を検討する。食前血糖値が70mg/dL以下であれば責任インスリンの減量を検討する。ただし、調節するインスリンの総量は4単位を超えない範囲で行うのが安全である。 |
インスリン療法に切り替える症例では経口血糖降下薬を使用している場合が多い。経口薬を併用する事で血糖値が改善し、インスリン使用量を減らせるというデータもある[32]。経口薬の併用で低血糖の発生を減らせるとの意見もある[要出典]。経口薬を1錠だけ残し、インスリン導入をしている例が非専門医の場合は多い。
食事をしないIVHの患者では高カロリー輸液にQやRを混ぜる事もある。この場合はグルコース10gにつきR1単位から始めて血糖を測定から至適量を決めていく。注意として速効型インスリン以外の静注は禁止である。
速効型インスリンまたは超速効型インスリンの皮下持続投与によってインスリンの血中濃度を一定に保ち低血糖や高血糖のリスクを軽減する治療である。大まかの治療目標を以下にまとめる。()は緩めの目標である。
時間 | 血糖値(mg/dL) |
---|---|
食前 | 80〜110(130) |
食後2時間 | 180(200)以下 |
就寝前 | 100〜140 |
午前3時 | 90以上 |
CSIIでは強化インスリン療法(4回打ち)の時のインスリンの60〜80%のインスリン量でコントロールできる場合が多い。基礎注入量と食前静注量を決定する。基礎注入量が全体の40〜50%を占め、残りが食前静注となる事が多い。
糖尿病患者が治療中に発熱、下痢、嘔吐を来たし、または食思不振により食事が出来ない状態をシックディという。この場合の対応としては主治医や医療機関に連絡を行い指示を受ける、決して自己中断をせず、水分を摂取して十分に脱水を防ぐ、口当たりがよく消化によいものを摂取して絶食状態にならないようにする、血糖を3-4時間ごとに測定する、可能ならば尿中ケトン体を測定するといった事が原則となる。2型糖尿病で食事が十分に摂取できていれば普段通りにインスリンの投与を行い、食事量が半分ならばインスリンを普段の半分量使用する、ほとんど摂取が不可能ならば血糖値に応じてインスリンスライディングスケールで対応するのが一般的である。1型糖尿病の場合は基礎分泌に相当するインスリン量は変更しないのが原則である。入院の適応を考えるべき状況とは、高熱が2日以上続く時、嘔吐や下痢が続く時、脱水や尿量減少が認められる時、高血糖(350 mg/dL以下にならない)や尿中ケトン体陽性が続く時、高血糖に伴う症状(口渇、多飲、多尿、急激な体重減少、意識障害)が発生した時が挙げられる。これらの状況では、糖尿病性昏睡の治療法に則って行う。
糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)や非ケトン性高浸透圧性昏睡(HHS)の場合、インスリンを投与する事がある。生理食塩水で500〜1000mL/hrの輸液を開始し、超速効型を10単位静注する。以後は0.1単位/kg/hrにて点滴静注する。血糖が250〜300 mg/dL、HCO3->18、pH>7.3になるまで続ける。インスリン投与にて低カリウム血症となる為カリウムを補充する必要がある。これはインスリンがカリウムを消費する事と糖尿病性緊急症の時はアシドーシスがあるのでカリウムが高めに測定されるという事の二つの理由で説明できる。乳酸アシドーシスの場合も基本的な対応は同様であり、脱水の是正、高血糖を伴う場合は高血糖の是正を行う。
欠乏物質 | DKAでの欠乏量 | HHSでの欠乏量 |
---|---|---|
総水分 | 4〜6L | 4〜9L |
水分 | 100mL/kg | 100〜200mL/kg |
Na | 7〜10mEq/kg | 5〜13mEq/kg |
Cl | 3〜5mEq/kg | 5〜15mEq/kg |
K | 3〜5mEq/kg | 4〜6mEq/kg |
PO4 | 5〜7mmol/kg | 3〜7mmol/kg |
Mg | 1〜2mEq/kg | 1〜2mEq/kg |
Ca | 1〜2mEq/kg | 1〜2mEq/kg |
ハンス・クリスチャン・ハーゲドン(1888-1971)とアウグスト・クローグ(1874-1949)は、カナダ・トロントのBanting and Bestからインスリンの権利を取得した。1923年に彼らはNordisk Insulin laboratoriumを設立し、1926年にはAugust Kongstedとともに非営利財団としてデンマーク王室の認可を取得した。
1936年、ハーゲドンとB・ノルマン・イェンセンは、インスリンにカワマスの白子または精液から得たプロタミンを添加すると注射の効果を延長する事を発見した。その後、カナダのトロント大学がプロタミン亜鉛インスリン(PZI)のライセンスを取得し、幾つかのメーカーに供給した。この混合液は注射の前に振るだけでよい。PZIの効果は24〜36時間持続するが不安定であった。
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