統合幕僚長

日本の防衛省の統合幕僚監部の長であり、自衛官の最高位者 ウィキペディアから

統合幕僚長

統合幕僚長(とうごうばくりょうちょう、: Chief of Staff, Joint Staff)は、統合幕僚監部の長であり、自衛官の最高位者[1]。階級は陸将、海将または空将のいずれか[2]。陸上幕僚長・海上幕僚長・航空幕僚長とは兼任せず、慣例的に陸上幕僚長海上幕僚長または航空幕僚長の中から持ち回りで選出・任命される。警察庁長官および各省事務次官と同等の政令指定職8号。

概要 日本統合幕僚長 Chief of Staff, Joint Staff, 組織 ...
日本
統合幕僚長
Chief of Staff, Joint Staff
Thumb
統合幕僚長旗
Thumb
現職者
陸将吉田圭秀(第7代)

就任日 2023年(令和5年)3月30日
組織行政府
防衛省
種類自衛官
所属機関統合幕僚監部
任命防衛大臣
初代就任先崎一
(第26代統合幕僚会議議長)
創設2006年(平成18年)3月27日
ウェブサイト防衛省・自衛隊
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概要

要約
視点

陸海空自衛隊の運用に関し一元的に防衛大臣を補佐し、統合幕僚監部の所掌事務[3]に係る大臣の指揮命令は、全て統合幕僚長を通じて行う(統合幕僚監部の所掌事務に係らないものは、陸海空各幕僚長を通じて行う)[4][5]。部隊運用に際しては、フォースプロバイダー(練度管理責任者)の陸上幕僚長海上幕僚長航空幕僚長から提供された各自衛隊の部隊を、自衛官最高位のフォースユーザー(事態対処責任者)として、陸自の陸上総隊司令官方面総監、海自の自衛艦隊司令官地方総監、空自の航空総隊司令官に大臣の命令を執行することになる[6][7][8]共同の部隊特別の部隊(統合任務部隊)への防衛大臣の命令も、統合幕僚長が執行する[9]。また、アメリカ統合参謀本部議長のカウンターパートの役割も果たす[10]

法形式上は、防衛大臣が指揮命令をし、統合幕僚長は大臣の補佐および命令の執行をするが、実質上は統合幕僚長の指揮と言える[11]。また、統合幕僚長は職務を行うにあたり、陸海空各幕僚長に対し、必要な措置をとらせることができる[6]

階級章は、陸海空各幕僚長たる将および統合作戦司令官たる将と同じ4つ星[注 1]で、旧軍や諸外国軍における大将相当官とされ、左胸(ポケット)には統合幕僚長の身分を示す統合幕僚長章を着用する[12]。この統合幕僚長章はかつては統合幕僚会議議長章であり、1962年(昭和37年)12月1日に4つ星が制定された際、陸海空各幕僚長が左胸に着けていた幕僚長の身分を示す幕僚長章が廃止されたのに対し、本章は初代統幕議長以来、連綿と受け継がれている。

統合幕僚監部の設立までは、統合幕僚会議の長として統合幕僚会議議長(とうごう-ばくりょう-かいぎ-ぎちょう)、略して統幕議長(とうばくぎちょう)が置かれていた。

三自衛隊の統合運用の重要性が増してきたことを受けて、2006年(平成18年)3月27日に「統合幕僚会議」および「同事務局」が「統合幕僚監部」に改編され、統合幕僚会議議長も統合幕僚長となった。それまでは陸・海・空の各自衛隊ごとの運用が基本とされ、統合幕僚会議議長は主に三自衛隊の調整役としての役割をもち、部隊指揮においては陸・海・空の2つ以上の自衛隊が統合部隊を編成したときにのみそれを担っていたが、統合幕僚長への変更に伴って三自衛隊の統合運用が基本となり、常時三自衛隊を統合運用する最高のフォースユーザーとしての立場が明確化された[8][13]。統合幕僚会議議長は、各幕僚長に対する明確な指揮権は無かったが、統合幕僚長は各幕僚長への指揮権が与えられた[14]。最後の統合幕僚会議議長は、2004年(平成16年)8月30日に就任した先崎一陸将である。

なお、統合幕僚長・統合幕僚会議議長ともに自衛官の最上位であるため、退任すなわち退官となる。退官に際しては、皇居への参内と園遊会への招待を受けることが慣例となっている。

  • 防衛大臣からの指揮監督系統[7]
部隊運用
 
 
防衛大臣
 
 
 
 
 
 
統合幕僚長
 
 
 
 
 
 
 
部隊運用以外
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
陸海空各幕僚長
 
 
 
 
 
 
 
統合任務部隊指揮官
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
陸上総隊司令官等
 
 
 
 
 
 
 
 
 
自衛艦隊司令官等
 
 
 
 
 
 
 
 
 
航空総隊司令官等
 
 
 
 
さらに見る 統合幕僚長, 陸海空各幕僚長 ...
統合幕僚長の権限[6][15][7][5]
統合幕僚長陸海空各幕僚長
防衛大臣の補佐自衛隊の運用に関して軍事専門的観点
からの補佐を一元的に行う
各自衛隊の隊務(運用を除く)に関する
専門的助言を行う
部隊への権限フォースユーザーフォースプロバイダー
対象となる部隊3自衛隊・共同の部隊統合任務部隊各自衛隊
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定年

陸将・海将・空将たる自衛官は60歳を以て定年退官となるが、統合幕僚長たる陸将、海将、または空将の定年は62歳となっている[16]。自衛隊法第四十五条には定年年長の規定があり、初代・先崎一、第5代・河野克俊と第6代・山崎幸二はその適用を受けている。陸将・海将・空将の定年を超えて統合幕僚長の職位にある自衛官が統合幕僚長の職務を辞任したり、解任された場合はその時点で定年に達したものとみなされ自動的に定年退官となる。

叙勲

日本の叙勲制度では70歳以上が授与対象者となっており、従来は原則として統合幕僚会議議長経験者には瑞宝重光章(旧勲二等瑞宝章)が授与されていたが、内閣総理大臣安倍晋三の「高い士気と誇りを持って任務を遂行できるようにしなければならない。今後も自衛隊員に対し、任務にふさわしい名誉や処遇が与えられるよう不断に検討する」との方針で、2014年から統合幕僚長(旧統合幕僚会議議長)経験者には70歳に達した後に瑞宝大綬章(旧勲一等瑞宝章)が授与されるようになった[17]

統合作戦司令官新設による統合幕僚長の職務変更

要約
視点

統合幕僚長は、アメリカ合衆国の場合と例示・比較し、文民の最高司令官であるアメリカ合衆国大統領国防長官の最高軍事補佐機関であるスタッフとしての統合参謀本部議長の職務と、最高司令官の命令を武官として最高の立場で指揮するラインとしての統合軍司令官の機能を併存させている。そのため、大規模災害や有事の際に、内閣総理大臣防衛大臣への補佐と各部隊への指揮という2つの任務に忙殺され対応できない可能性も指摘されるようになった。2012年(平成24年)11月の「東日本大震災への対応に関する教訓事項(最終とりまとめ)」においても、補佐と指揮は両立し得たものの、統合幕僚監部の業務増大に伴う様々な機能強化が必要とされ、運用部副部長の設置等の対応があげられている[18]

2010年代半ばには、運用機能の更なる強化手法として、統合幕僚監部から隷下の運用部を切り離すなどして、新たに統合幕僚監部とは別の常設の「統合司令部」を創設、「統合司令官」のポストを新設してこれに部隊運用に行わせ、統合幕僚長を大臣補佐に専念させる構想が検討され始めた[19][20][21]

2022年(令和4年)6月6日、中国の海洋進出により台湾有事の可能性が高まっていること、宇宙・サイバー・電磁波などの安全保障の新領域へ対応するために、新たに統合司令部を創設して新設する統合司令官を部隊運用に専念させることへの本格的な検討に入ったと報じられた[22]

そして2022年(令和4年)12月16日に閣議決定された防衛力整備計画(旧・中期防衛力整備計画)において、常設の統合司令部が設立される方針が示された[23]。報道によれば規模は400人程度(ただし、設立当初は240人程度)とされ、2024年(令和6年)度中の設立を目指して調整しているとされている。設置場所としては、陸海空の各自衛隊がそれぞれの拠点の近くに統合司令部を置きたいという狙いもあって、陸上総隊司令部が置かれる朝霞駐屯地や、航空総隊司令部や在日米軍司令部がある横田基地自衛艦隊司令部や米海軍第7艦隊の事実上の母港である横須賀海軍施設がある横須賀基地を候補地とする見方もあったが[24]市ヶ谷に置かれる方針が決定している。

2024年(令和6年)5月10日、統合作戦司令部や統合作戦司令官の設置を盛り込んだ防衛省設置法等の一部を改正する法律(令和6年法律第24号)が成立し[25]、2025年(令和7年)3月24日に統合作戦司令官 / 統合作戦司令部が設置されたことに伴い、統合幕僚長の職務から部隊運用に関する権限が分離し、防衛大臣や内閣総理大臣の補佐に注力できることになった。

  • アメリカ軍とのカウンターパート比較
 
自衛隊
 
 
 
 
 
アメリカ軍
 
防衛大臣
 
 
 
 
 
 
 
国防長官
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
補佐
 
 
 
 
 
 
 
 
 
統合
幕僚長
 
統合参謀
本部議長
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
インド太平洋軍
司令官
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
部隊運用
 
 
 
 
 
自衛隊部隊
 
 
 
 
 
アメリカ軍部隊
  • アメリカ軍とのカウンターパート比較(統合作戦司令部設置後)
 
自衛隊
 
 
 
 
 
アメリカ軍
 
防衛大臣
 
 
 
 
 
 
 
国防長官
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
補佐
 
 
 
 
 
 
 
 
 
統合
幕僚長
 
統合参謀
本部議長
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
統合作戦
司令官
 
 
 
 
 
インド太平洋軍
司令官
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
部隊運用
 
 
 
 
 
自衛隊部隊
 
 
 
 
 
アメリカ軍部隊

歴代の統合幕僚会議議長および統合幕僚長

さらに見る 代, 写真 ...
歴代の統合幕僚会議議長および統合幕僚長(たる自衛官)
写真階級氏名在任期間出身校・期前職備考
統合幕僚会議議長
01Thumb陸将林敬三1954.07.01 - 1964.08.13東京帝国大学
昭和4年卒
第一幕僚長内務官僚出身
02Thumb海将杉江一三1964.08.14 - 1966.04.29海兵56期・
海大37期
海上幕僚長
03Thumb陸将天野良英1966.04.30 - 1967.11.14陸士43期・
陸大52期
陸上幕僚長
04Thumb空将牟田弘國1967.11.15 - 1969.06.30陸士43期航空幕僚長
05Thumb海将板谷隆一1969.07.01 - 1971.06.30海兵60期海上幕僚長
06Thumb陸将衣笠駿雄1971.07.01 - 1973.01.31陸士48期・
陸大55期
陸上幕僚長
07Thumb陸将中村龍平1973.02.01 - 1974.06.30陸士49期・
陸大56期
08Thumb空将白川元春1974.07.01 - 1976.03.15陸航士51期・
陸大58期
航空幕僚長
09Thumb海将鮫島博一1976.03.16 - 1977.10.19海兵66期海上幕僚長
10Thumb陸将栗栖弘臣1977.10.20 - 1978.07.27東京帝国大学・
海軍短現10期[注 2]
陸上幕僚長超法規発言[注 3]で辞任
11Thumb陸将高品武彦1978.07.28 - 1979.07.31陸士54期
12Thumb空将竹田五郎1979.08.01 - 1981.02.15陸航士55期航空幕僚長
13Thumb海将矢田次夫1981.02.16 - 1983.03.15海兵72期海上幕僚長
14Thumb陸将村井澄夫1983.03.16 - 1984.06.30陸士58期陸上幕僚長
15Thumb陸将渡部敬太郎1984.07.01 - 1986.02.05陸士60期
16Thumb空将森繁弘1986.02.06 - 1987.12.10陸航士60期航空幕僚長旧軍に在籍した最後の自衛官
17Thumb陸将石井政雄1987.12.11 - 1990.03.15立教大学
昭和28年卒
陸上幕僚長
18Thumb陸将寺島泰三1990.03.16 - 1991.06.30東北大学
昭和31年卒
19Thumb海将佐久間一1991.07.01 - 1993.06.30防大01期海上幕僚長
20Thumb陸将西元徹也1993.07.01 - 1996.03.24防大03期陸上幕僚長後に防衛大臣補佐官
(後の防衛大臣政策参与)
21Thumb空将杉山蕃1996.03.25 - 1997.10.12防大04期航空幕僚長
22Thumb海将夏川和也1997.10.13 - 1999.03.30防大06期海上幕僚長
23Thumb陸将藤縄祐爾1999.03.31 - 2001.03.26防大08期陸上幕僚長
24Thumb空将竹河内捷次2001.03.27 - 2003.01.27防大09期航空幕僚長退任後、防衛省顧問
25Thumb海将石川亨2003.01.28 - 2004.08.29防大11期海上幕僚長
Thumb陸将先崎一2004.08.30 - 2006.03.26防大12期陸上幕僚長初代統合幕僚長へ
統合幕僚長
01Thumb陸将先崎一2006.03.27 - 2006.08.03防大12期統合幕僚会議議長定年延長(3か月)
退任後、JMAS会長
02Thumb海将齋藤隆2006.08.04 - 2009.03.23防大14期海上幕僚長退任後、防衛省顧問
03Thumb陸将折木良一2009.03.24 - 2012.01.30防大16期陸上幕僚長退任後、防衛大臣補佐官
(後の防衛大臣政策参与)
04Thumb空将岩崎茂2012.01.31 - 2014.10.13防大19期航空幕僚長退任後、防衛大臣政策参与
05Thumb海将河野克俊2014.10.14 - 2019.03.31防大21期海上幕僚長定年延長(3回:2年6か月)
退任後、防衛省顧問
06Thumb陸将山崎幸二2019.04.01 - 2023.03.29防大27期陸上幕僚長定年延長(1回:3か月)
07Thumb陸将吉田圭秀2023.03.30 -東京大学
昭和61年
(防大30期相当)
陸上幕僚長定年延長(2回:1年6か月)
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関連条文

  • 自衛隊法(令和六年五月十七日改正時点)
第八条(防衛大臣の指揮監督権)
防衛大臣は、この法律の定めるところに従い、自衛隊の隊務を統括する。ただし、陸上自衛隊、海上自衛隊又は航空自衛隊の部隊及び機関(以下「部隊等」という。)に対する防衛大臣の指揮監督は、次の各号に掲げる隊務の区分に応じ、当該各号に定める者を通じて行うものとする。
一 統合幕僚監部の所掌事務に係る陸上自衛隊、海上自衛隊又は航空自衛隊の隊務 統合幕僚長
二 陸上幕僚監部の所掌事務に係る陸上自衛隊の隊務 陸上幕僚長
三 海上幕僚監部の所掌事務に係る海上自衛隊の隊務 海上幕僚長
四 航空幕僚監部の所掌事務に係る航空自衛隊の隊務 航空幕僚長
第九条(幕僚長の職務)
統合幕僚長、陸上幕僚長、海上幕僚長又は航空幕僚長(以下「幕僚長」という。)は、防衛大臣の指揮監督を受け、それぞれ前条各号に掲げる隊務及び統合幕僚監部、陸上自衛隊、海上自衛隊又は航空自衛隊の隊員の服務を監督する。
2 幕僚長は、それぞれ前条各号に掲げる隊務に関し最高の専門的助言者として防衛大臣を補佐する。
3 幕僚長は、それぞれ、前条各号に掲げる隊務に関し、部隊等に対する防衛大臣の命令を執行する。
第九条の二(統合幕僚長とその他の幕僚長との関係)
統合幕僚長は、前条に規定する職務を行うに当たり、部隊等の運用の円滑化を図る観点から、陸上幕僚長、海上幕僚長又は航空幕僚長に対し、それぞれ第八条第二号から第四号までに掲げる隊務に関し必要な措置をとらせることができる。
  • 防衛省設置法(令和六年三月二十一日改正時点)
第二十一条(幕僚長)
統合幕僚監部の長を統合幕僚長とし、陸上幕僚監部の長を陸上幕僚長とし、海上幕僚監部の長を海上幕僚長とし、航空幕僚監部の長を航空幕僚長とする。
2 統合幕僚長は自衛官をもつて、陸上幕僚長は陸上自衛官をもつて、海上幕僚長は海上自衛官をもつて、航空幕僚長は航空自衛官をもつて充てる。統合幕僚長たる自衛官は、自衛官の最上位にあるものとする。
3 幕僚長は、防衛大臣の指揮監督を受け、幕僚監部の事務を掌理する。

脚注

関連項目

外部リンク

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