子供のために
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『子供のために』(こどものために、ハンガリー語: Gyermekeknek、チェコ語: Pro děti、英語: For Children)は、ハンガリーの作曲家バルトーク・ベーラ (1881年 - 1945年)がブダペスト音楽院のピアノ科教授に就任した後の20歳台後半に作曲した、子供や初学者を対象としたピアノ曲集である[2]。旋律にはハンガリーとスロバキアの民謡がほぼそのままの形で使われており、音楽教育を目的とした作品としても民謡の編曲作品としても最初の大規模な曲集である[3]。
1908年から1910年にかけて作曲された初版は全4巻、85曲からなり、ブダペストのロジュニャイ・カーロイ社から出版された[4]。第1巻と第2巻がハンガリー民謡、第3巻と第4巻がスロバキア民謡に基づいている[5]。その約30年後、バルトークがアメリカ合衆国に移住していた最晩年の1943年に作曲者自身による改訂版がつくられ、バルトークの死後、1946年にニューヨークのブージー&ホークス社(本社はロンドン)から出版された[4]。改訂版は、初版の第1巻と第2巻、第3巻と第4巻がそれぞれ統合されて全2巻となり、6曲が削除されて79曲となっているほか、一部の曲では和音や拍子が変更されている[5]。
原曲の民謡(わらべ歌や器楽曲も含む)については、バルトーク自身がハンガリー各地の農村を訪れて採集(蝋管式蓄音機による録音および採譜)したもののほか、『ハンガリー子供の遊戯歌集』や『スロバキア歌集』など、先駆者が収集したものが約半数の曲で使われている[6]。バルトークの編曲は民謡の歌詞の内容や雰囲気をよく表現しており[7]、技法の面では後の『ハンガリー農民歌による8つの即興曲(英語版)』などに比べれば単純なものであるが[8]、バルトークは曲が単調に陥らないよう様々な工夫を凝らしており[9]、こうした工夫が以後の作品における作曲技法の出発点となっている[10]。曲集の中には音楽的に高度な曲も含まれており、子供や初学者用の教材にとどまらずプロのピアニストのレパートリーにもなっている[11]。バルトーク自身も生涯この曲に愛着をもっており[12]、その抜粋を自身の演奏会で取り上げた[8]。
バルトークの作品番号には複数の分類方法があるが、セーレーシ番号ではSz 42、ショムファイ・ラースロー(ハンガリー語版)による番号ではBB 53である[4][注 1]。